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人生にもしも…なんてないけど ⑪介護5 母の笑みは錯覚?

母が一番重い介護5になった時、自己負担額を気にすることなく介護サービスが受けられるようになった時、ケアマネージャさんと話したことがあった。
「認知症って不思議ですね。介護1,2の時の方が同じこと言ったり、目が離せず振り回されたり、大変だったのに…。介護4,5だと着替え、食事介助、トイレとやらないといけない介護はあって大変だけど、介護者のペースでできるし、自分からは動けないから問題行動にならないし…。認知症の方も治ってるような?なんか状況をわかっているように思うんですよね。」と。

骨折から数年経過し、老化も進んでいる母はどこまでわかっているのだろうか?
ガラス越し面会でリクライニングの車いすに全身をあずけ、ぼんやりとした表情の母は、家に帰れる日を待ち望んでいるのだろうか?
それよりも、この数分のガラス越し面会も待ち望んでいるのだろうか?
いきなり施設暮らしになり、いつしか”コロナが落ち着いたら帰れるからね。”と言えなくなり、
「ご飯食べようるん?」
「この間のおやつ好きだった?」
と当たり障りのない言葉かけをして1年になろうとしていた。

1月生まれの母は無事80歳を迎えた。年始の面会時には「(祖母の寿命の)82歳まであと2年は長生きしてよ」って声かけをした。
母にとって歳月の感覚や長生きの喜びがあるのかどうかはわからないけど、私はまだまだ母にはそばにいてほしいのだ。

1月中旬、また面会に行った。その日は私たちの方が先に到着していた。
面会室のドアが開き、母の足先が見えた。そして、部屋に入った所でスタッフさんがよいしょっと車いすの向きを窓の方へと勢いよく変えた。
その瞬間、母がニコーと満面の笑みを見せた(ように見えた。あら~今日はえらいご機嫌だねぇと思った)
が、車いすが目の前に到着した時、覗き込んだ母の表情は、今までと同じ寝たきり老人の覇気のない顔だった。
あ、気のせいかと思い、
「お母さん、元気?ちゃんと食べようる?ねぇ、面会楽しみにしてくれようるん?」と問いかけをする。
スタッフさんが母の肩を叩いて窓際の方を指さすのにつられて、チラッと目が動いたがすぐまたぼんやりと宙を見ている。目も1㎜位しか開いてない。スタッフさんはその間も向きの微調整をして少しでも私たちの姿が母の視界にはいるようにと工夫をしてくれていたけど、母は目をつぶり始めた。
スタッフさんが「食事はよく食べてますよ」と言い、私たちも「肌の色つやはいいですよね!甘酒効果でしょうかね?!」と話をして面会を終えた。

そして、この5日後、父から電話で母が入院したことを聞かされた。

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