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今は見守ろう、さかなクンのお母さんのように(2)

信じて見守る

長男は教室にいる時、基本は読書かゲームをしている。さかなクンが授業中に魚の絵を描いて過ごしていたのと変わらない。それが最近少し状況が変わって、長男は今、司書さんが学校に来ている週2日間は、ずっと図書室で過ごしているらしい。

図書室に行って大丈夫なのかと訊いたら、大丈夫だと言う。司書さんからも「授業受けないの?」と言われることも無く、なんなら他の学年が図書室を授業で利用する際などには、わざわざ秘密の小部屋にかくまってくれるらしい。

担任の先生はどうなのかと訊いたら、長男は「図書室行きます」と伝えてから行くらしく、先生の返事はと言うと、暗黙の了解だと言っていた。先生が返事をするより先に図書室に向かってしまっているからというのもあるだろう。

しかし、どうやら以前、居場所だけは報告するように言われたことがあって、それを守っているらしいのだ。先生から親にも連絡が来ていないところを見ると、長男と先生との間ではきちんと契約が交わされているのだろう(と信じたい)。

ならば親は口を出すまいと思った。長男は本が好きなのだ。読みたいだけ読めば良い。そういう子がいたっていいではないか。それに、素敵な司書さんとの時間、そして好きなだけ本が読めるという最高の時間を、奪いたくないと思った。

図書室にいるときは、親からあれこれ言われる事もなく、唯一、誰からも監視されずにゆっくりできる時間にもなっているのだろう。長男にはそういった場所も必要な気がしていた。

親としては、担任の先生が管理職から何か言われることがあるかもしれないとか、そうは言ってもなるべく授業に参加させたいだろうにと思うと、長男に、「ならば最低限、宿題だけは毎日やりなさい、それは担任の先生に対する敬意と感謝を示す意味でやりなさい」とだけは言わなければと思って伝えたのだった。こういうことを言うから、長男が守らなかったときに腹が立ってしまうのかもしれないと思いつつ。

我が子だけが授業を受けずに図書室にいるわけだが、もうそれで良しと思った。夫も、それで良いだろうと言った。

司書さんはなんと、長男のために、ご自宅にある本まで持ってきて読ませてくれているらしい。先日は『ポコニャン』(藤子・F・不二雄 作)という漫画の割と分厚い本を読ませてもらったと言っていた。さかなクンがダンプトラックの運転手さんに、運転席に乗せてもらったのと同じだ。本当に有り難い。

長男が司書さんとどんなやりとりをしているのかは、時々布団に入ってから訊いている。長男はびっくりするくらい甘えっ子で、今でも布団でぎゅっとしてほしがる。腕枕で寝ながら、司書さんの話をしてくれて、『ポコニャン』がどんな話か教えてくれた後、唐突に質問された。

長男:お母さん僕のこと嫌いになることある?
私 :ないよ。怒るけど、本当に嫌いになることはないから、そこは安心して良いよ。どうしたの、何か思うことあった?
長男:心配になったことがあって。

それもそうかもしれないと思った。一時期は長男を散々叱っていたのだから。

私 :どんな時にそう思った?怒られたとき?
長男:まぁそうかな。
私 :薬の話もしちゃったからかな。
長男:わかんない。
私 :本気で必要とは思ってないよ。感情的になって言ったことは本気ではないから。でも言っちゃいけなかったなとは思ってる。ごめんね。

長男は少し安心したようだった。長男としては、自分だって一生懸命考えたことを言っているだけなのに、なぜ一方的に怒られる状況になってしまうのかと思うらしい。

さかなクンはお母さんに対してこんな不安を抱くことはなかったのではないだろうか。長男は逞しく見えてしまうけれど、意外にも繊細な部分を持ち合わせていることを忘れないようにしないといけない。

司書さんと長男の関係を見ていると、さかなクンのお母さんとアプローチが似ているような気がして、その方が断然長男との関係も穏やかだし健全な時間が過ごせるのだなと思った。

今は、「今日は図書室の日か?」と訊くと、長男はニタッと笑って学校に行く日が続いている。