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『猫の時間』

忙しい。アレもやらなければいけない。
コレもやらなければいけない。
でももうムリだ。
いっぱいいっぱいだ。

家の中で頭を抱えていた俺はふらふらと玄関を出て階段を降りる。ふと目の前には猫がいる。

前足をじょりじょりと舐めている。
一瞬イラッとしたが、その姿を見ているとなんだか時がゆっくり進むように思えた。

「美味しいですか?前足」
聞くと、ピタと舐めるのを止めコチラを見る。
何言ってんだとでも言いたそうだ。
「一撫でしていいですか?」
そうっと手を頭に近付けると、逃げもせず猫はじっとしている。ただ、すごく嫌そうな顔をしている。ものすごく嫌そうな顔。
「すみませんでした」
謝ると、猫はにゃんおうんと独特な声で鳴いて去っていった。

そういえば、俺はなんで外に出たんだったかな。
まあ、いいか。
家に帰ったら思い出すだろう。

「一撫でしていいですか?」

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