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ありがたいお薬

フィナステリド(Finasteride)は、アメリカメルク社が開発した抗アンドロゲン薬。2型5-α還元酵素を阻害して、男性ホルモンテストステロンがDHT(ジヒドロテストステロン)に転換されるのを抑制する。

低用量(0.2mgまたは1mg/day)で、男性型脱毛症(AGA)に対して脱毛抑制効果を認め、プロペシア(Propecia)の商品名で多くの国で発売されている。プロペシアの日本での特許は2015年に切れており、各社から後発品が発売されている。後発品の商品名にはフィナステリドが用いられる。2020年時点で、日本でフィナステリドを製造・販売している製薬会社は計10社存在する。


2年ほど前から抜け毛が気になりはじめて、何度も髪の毛が全部なくなる夢を見た。そんな夢から目覚めたある日の朝に慌てて病院の予約をとった。無料カウンセリング、治療は月額2980円〜と大々的に広告されるそれは、1年の治療費を5年まで分割できますよ。その場合こんなに安くなりますよ。という、とんでもない内容であった。

親切を装い説明してくる厚化粧妙年お姉さんは
"今ならまだ間に合います"
"これをやればすぐに効果が出ますよ"
"1日でも早い方がいいです"
"今日契約してもらえたら50万円です"
などと、不安を煽り巧妙に契約させようと捲し立ててくる。世の中には、この手法のクリニックが数多ある。社会を知らない20代前半であれば、あるいは年齢だけ重ねた非モテの寂しいおじさんであれば、せかせかと慌てて契約していたかもしれない。

でも、幸か不幸か僕はもうそんな境地にいない。
年齢を重ねて脱毛クリニックには置いてもらえなくなった妙年厚化粧お姉さんは、恐らく看護師ですらない。ネットで調べた僕よりちょっと詳しいだけの人だ。間違っても君の養分になるまい。お金のために事実を誇張したり捻じ曲げた説明をする君は、無計画でここまで行き着いてしまった君だ。僕の未来は任せられないよ。と考えながら、丁寧にお断りをした。

その他にもいくつか同じようなクリニックはあるものの、内容に大差はないだろうとそれらを諦め、全て自己責任で薬を飲み始めた。もうすぐ2ヶ月だろうか。


効果はまだ分からない。おおよそ3ヶ月〜6ヶ月で発現するらしい。僕は今まで比較的に健康で薬に頼らず生きてきたから、どんな薬もよく効く自覚がある。これも3ヶ月もすれば、それを実感するのだろう。


この薬にももちろん副作用がある。


一部の男性ホルモンの生成を阻害する薬であるため、さまざまな男性としての機能の低下が1%程度の確率で起こりうるらしい。

僕はそれを理解している。
そして、それを既に感じている。

性的なことは年齢のこともあるので、因果関係は分からないが前と比べると、と思うことはいくつかある。でも、それは別にいい。

問題なのは、別にいいと思っている心境の変化だ。

今までの考え方の習慣、感情の移ろい、全てが穏やかになってしまったような、あるいはそれらに違和感を感じるようになった気がするのだ。

憤りを感じて燃える自分がいる、一方で別にいいんじゃない?その感情って必要なの?と疑問に思う自分がいる。男性ホルモンの抑制で、そんなことが起こり得るのだろうか。いや起こっても不思議ではないなと思う。

たった2か月なのに。
気持ちが、考え方が変わってしまうのか。
気のせいだろう。
本来そんな副作用はないはずだ。
いつまでも何かに憤慨しながらその熱量を武器に成長する自分でいたい。

それを失うことは今までの僕が死ぬことと同義だ。自分の正義を失った時、僕はなにを糧に生きるのだろう。今までの言葉を誰に謝ればいいのだろう。

薬に支配された僕は、それまでの僕と同じ人なのだろうか。

分からない。

これもいつもの杞憂に終わればいい。

大袈裟に物事を捉える悪い癖だ。


ただ、恐ろしく思う。

この薬は、感情の起伏を抑制するための薬ではない。それでこの感覚なのだ。

では、そのために作られた薬であればどうなのか。感情の起伏を抑えられた人は、本来のその人なのか。分からない。1つ言えるのは、今の僕よりはるかに辛いのだろう。

また1つ、人に優しくなれる気がする。

髪の毛を得る前に、得るものがあったお話。


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