塩むすびのふしぎ
「白米が食べたい!!!」
夕食を食べ終えた1時間後。
隣でだらだらしていた彼が急に立ち上がり、まっすぐに炊飯器に向かう。
彼は炊飯器の前で、あとは蓋を開けるだけ!という状態で立ち止まり
「でも、茶碗によそって食べるといっつも食べ過ぎちゃうんだよね〜、、」
と言った。
彼は大の白米好きだ。
外食をするときも必ず大盛りの白米を注文する。
お茶碗にこんもりよそって必死に白米をかきこむ姿を隣で眺めることは、私のお気に入りだ。
でもその日は、気分で
「じゃあ、塩むすび作ったげよっか。うちが握った分しか食べれません。どう?」
と言ってみた。
「いいねぇ。食べたい!」
かけすぎないように、
かと言って少なすぎないように意識して白米にアジシオを振りかける。
彼が食べる用だから、いつもより少し大きめに、ほろほろとほどけない様に強めの力でにぎる。
彼は「さんきゅさんきゅ!」と言い、
生まれて初めて白米を食べるかのように、すごい勢いで食べた。
それを見て笑った。
食べ終わった彼は、
「俺、実家にいたとき父さんが作る料理で1番塩むすびが好きだった。でっかい手で、カックーンてなった三角に握ってくれて、何とも言えんちょうどいい塩梅の塩加減がめちゃくちゃ美味しくて。」
と楽しそうに話した。
心がほっこりあったかくなるのを感じた。
塩むすびといえば、、。
去年亡くなったおばあちゃんの塩むすびをぼんやり思い出す。
親戚が集まると必ず食卓に並んでいたおばあちゃんの塩むすび。
俵のような形に、味付けのりがくるっと巻かれている。
何とも言えない、おばあちゃんにしかできない塩加減と力加減でにぎられた、
目をつむって食べてもおばあちゃんのおむすびだ。とすぐにわかる味。
もう一生食べることができない味。
少しだけ切なくなった。
塩と白米だけしか使わないのに、人によって味が全然違う、
唯一無二の食べ物になるのがほんとうに不思議だ。
人の記憶に残る味。
あの人の塩むすびが食べたい。
そう思うのがどんな凝った料理でもなく、至ってシンプルな塩むすびだということが素敵だ。
そう思った。
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