A4小説「競馬日和」

 西宮北口駅に先に到着したのは三ノ宮方面からやってきた関の方だった。関は並んでいるカプセルトイの販売機を一通り見てから宝塚方面行のホームへと下り、待ち合わせ場所だったコンビニの前で待機し行き交う人々を眺めていた。
 ほどなくして梅田方面から杉本がやってき、関と合流した。二人の目的は阪神競馬場でのレース観戦で、この日は最終レースが終わるまでそこで過ごす予定だった。
 関と杉本は小学校からの同級生で、高校まで同じ学校に通った。中学までは話もあまりしてこなかったが、高校の時に同じゲームに熱中し情報交換などをしているうちにすっかり仲が良くなった。そのゲームというのが競走馬を育成するシミュレーションゲームで、二人とも本物の競馬にも興味を持つようになった。高校・大学を卒業し、それぞれ兵庫と大阪で就職をしたが、競馬への関心が冷めることはなく、大きいレースがあれば競馬場で観戦するようにしていた。
 関と杉本が初めて競馬場を訪れたのは高校生の時だった。未成年だったので勝馬投票券と呼ばれるいわゆる馬券を買うことはできなかったが、レースに向けてピカピカに仕上げられた綺麗なサラブレッドを目の前で見ることができたことにとても感動した。また、芝生広場や噴水もあり、家族連れもたくさん来ていたことから競馬場のイメージが一変したのもその時だった。
 仁川駅では大勢の人が下車し、ほとんどの人が同じ場所を目指して歩いていく。入場券を買って門をくぐるとテーマパークに来たのと同じような感覚になる。少し歩くとパドックが見え、次のレースに出走する競走馬が周回しているところだった。
 この日のメインレースは伝統のある長距離戦で、競走馬たちは3,000mを走るというスタミナ勝負のレースだった。一般的に競走馬は胴が長い方が長距離適性があり、短く詰まっていれば短距離適性があると言われている。関は当然そういった点も考慮しながら予想をし「胴の長い馬、胴の長い馬…。」と心の中で呟きながらパドックを注視していた。スタミナといえば中学時代の野球部の練習試合で、めちゃくちゃスタミナのある投手と対戦したことがあった。中盤からまた球速が早くなるその投手は、まるで双子が交代しながら投げているようだった。
 結局、関は過去の戦績や舞台適性を考えながらも、パッと見て胴の長い馬を本命に推すことにし、その馬から馬連で流すことにした。普段ならそんな買い方はしないのだが、今回は何故かその馬が気になった。その馬はどう見ても胴が長く見えた。2度見してしまうほど長かった。親近感も湧いていた。「2着までに来いよ!」と買った馬券に念を込めた。
 結果、胴が長いというだけで選んだ馬は大健闘し3着に食い込んだ。しかも2着馬とはハナ差というほんの数センチメートルの着差だった。「9番人気で3着だったんだから立派じゃないか。」と杉本には慰められたが、ハナ差でも負けは負けで、関は相当に悔しかった。そのレースは大荒れで、当たっていれば相当な金額になっていたということも、関の落ち込みを後押しした。
 そのレース以降、関はパドックで鼻の長い馬を探すようになった。

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