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一流の悲劇と、三流の喜劇

「機動戦士ガンダム0080ポケットの中の戦争」という作品がある。
ビデオカセット時代に制作された、OVA。TV用ではない全6話の短い作品だか、実は話をコンパクトにしつつも個々の登場人物の事情もにじませる秀作である。出渕裕作品はいつも出来がよすぎるのだが、この作品も唯一と云っていい
「泣けるガンダム」
という売り込み。
主人公の少年はあくまでも民間人で、その目を通して
「かっこいい兵器」
「かっこいい軍隊」
という夢想めいた友達との関係から、作品を通じ戦争の恐さや現実を少しだけ知って、ちょっと大人になっていくというもの。決して都合よく少年がガンダムを操縦することは、決してない。そこが、いい。

主人公アルはお隣のお姉さんクリスに惹かれつつ、偶然知り合ったジオンのパイロット・バーニィと少しずつ友情を深めていく。
ジオンはクリスマスにアルのコロニーへ核攻撃をする計画がある。このコロニーにニュータイプ用ガンダムの実験基地があるためだ。ガンダムさえ倒せばコロニーは攻撃されない。新兵のバーニィは恐怖をこらえてガンダムとの決戦を覚悟する。アルとふたりで壊れたザクを修理して、ガンダムに立ち向かっていくバーニィ。
決着は、相打ち。
ガンダムのコクピットにいたのは……クリス!

YouTubeのメッセージが、この作品の〈すべて〉だった。
戦争と、それに翻弄される個人の、一流の悲劇が……OVA作品だった。この悲劇を知って、大人になっていくアルが、のちの宇宙世紀ガンダム作品に登場することはない。民間人として生きていく。語り継いでいく。
これが、戦争の悲しさだ……と。

小説版では、バーニィは瀕死の重傷でも生き残ったとされている。
それはそれで、感情移入した視聴者にとってはHappyかも知れない。
しかし。
一流の悲劇を演じた作品として有終の美を飾った0080が、三流の喜劇、ハッピーエンドが蛇足になったことは違いないと、心の底から思う。

戦争には、ifで、美辞麗句を語れるものなどない。
のだから。

少年アル、当時の声優は浪川さん。
いまではNEW石川五右衛門やってるベテランです。でも色褪せない傑作。