見出し画像

革命だった初期角川映画

これまで手に触れようとしなかった角川文庫に、人の手が伸ばされたあの時代。本はごっつくて、格調や耐久性や装飾的に「どーだ!」という印象があった70年代に、お手軽で中学生でも気軽に手に出来た文庫本を安価で普及させた。しかも、メディアミックスで。

「読んでから見るか、見てから読むか」

これは昭和五二年(1977)に公開された森村誠一原作『人間の証明(佐藤純彌監督作品)』のキャッチコピー。
TVで乱発されて、ガキの頭でさえ安易に刷り込まれた。口にして学校でおどけるガキもいた。ワシのことだ。

角川映画というジャンルで括られた作品は、基本的に大人向け。小便臭いガキは一昨日きやがれな突き放し感もあったが、正直、そのとおりだ。アダルトな世界を分からない坊やは30分もすりゃ、寝てしまう。
ただし、第1作目は映像美や展開や音楽や演技力で、寝る奴はいなかっただろうと思う。そして、この成功が、角川映画の方向性を決定した。いや、確立したともいえよう。
みんなもよく知る、名作だ。

同じ監督のリメイクよりも、元祖に勝る傑作はない!

これ以後、ある時期までは角川映画はアダルト臭にむせ返る革命を、映画ファンに叩きつけた。

野生の証明……白昼の死角……戦国自衛隊……復活の日……魔界転生……スローなブギにしてくれ……蒲田行進曲。このあたりまでが、大人向けの角川映画だったと思う。私見だから、思う、だ。もっと早くから大人向けじゃないという者もいただろうし、「Wの悲劇」まで包括できる優しい人もいるだろう。あくまで私見にすぎない。
それ以降は、赤川次郎作品と角川三人娘のローテーションになったから、大人向けではないとワシは突き放した。しつこいが、あくまでも私見である。
それと、潤沢な資金に物を云わせた代わりに実のない物足りなさで、バブル頃から角川映画は変わった。その頃は、アニメ作品とアイドル映画感が角川映画に浸透したという印象が否めず、たまに魅せてくれた藤竜也の大人向け映画も興行的に首を傾げた。角川春樹本人がメガホンを取った「天と地と」については、原作の魅力は皆無。もともとこの作品は、独眼竜政宗で共演した渡辺謙に惚れ込んだ津川雅彦が「もう一度一緒にやりたい」というところから始まった映画だっただけに、結果は別になったことも成金映画という酷評になった一因だろう。不遇極まりない。

いまのKADOKAWAで冠される映画は、もう、あの頃のギラギラした映画とは別のものだ。

角川映画は大量宣伝によりヒットしていた一方で、話題先行で質が伴わないという風評があったが、「蒲田行進曲」の登場で、作品的にも評価された。オールナイトニッポンを当時聞いていたが、多くの映画賞を総ナメしたときは番組内で大騒ぎしていた回があった気がする。
あの階段落ちに、誰もが圧倒された。

時折、懐かしく思う。

深作欣二・相米信二の暴力的な作風や、藤田敏八の肩の力を抜ける作風、大林亘彦の実験的な作風が許された時代。寅さんなどの時期的興行で保っていた映画界に熱い焼けた石を放り込んだような荒っぽさ。全ての作品がギラギラしていたことを、心から懐かしく思う。

テレビ局べったりのドラマ風作品や特定芸能事務所忖度映画にアニメ。
コンプライアンスにガバナンスにハラスメント。
いまの映画には、往年の巨匠と肩を並べる革命児はいないのかも知れない。
だから、むかしの活力あった時代に逃げたくなる、今日この頃である。

角川春樹事務所映画

1976 犬神家の一族
1977 人間の証明
1978 野生の証明・野生号の航海 跳べ 怪鳥モアのように
1979 蘇る金狼・金田一耕助の冒険・白昼の死角・戦国自衛隊
1980 復活の日・野獣死すべし・刑事珍道中
1981 魔界転生・スローなブギにしてくれ・ねらわれた学園・悪霊島
   ・蔵の中・セーラー服と機関銃
1982 化石の荒野・この子の七つのお祝いに・蒲田行進曲・汚れた英雄
   ・伊賀忍法帖
1983 幻魔大戦・探偵物語・時をかける少女・里見八犬伝
1984 少年ケニヤ・晴れ、ときどき殺人・湯殿山麓呪い村・メインテーマ
   ・愛情物語・麻雀放浪記・いつか誰かが殺される・Wの悲劇
   ・天国にいちばん近い島
1985 カムイの剣・ボビーに首ったけ・友よ、静かに眠れ・早春物語
   ・結婚案内ミステリー・二代目はクリスチャン
1986 キャバレー・彼のオートバイ、彼女の島・オイディプスの刃・火の鳥
   ・時空の旅人
1987 黒いドレスの女・恋人たちの時刻
1988 花のあすか組・ぼくらの七日間戦争
1989 宇宙皇子・ファイブスター物語・花の降る午後
1990 天と地と
1991 天河伝説殺人事件・幕末純情伝・ぼくらの七日間戦争2
   ・アルスラーン戦記・サイレントメビウス
1992 アルスラーン戦記Ⅱ・サイレントメビウ2・風の大陸・ルビーカイロ
1993 REX恐竜物語
  この年、角川春樹の社長辞職