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《夜半の月》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十八の歌~

《夜半の月》原作:三条院
……素面やで、酒は目の前にあるけど。
笑うてくれや、お月さん。
嬶(かかあ)が先に逝きよって、もう3年や。
こんな爺が長生きして、しようもない事になった。
なぁ、お月さん、あんたはあの時と同じままか?

<承前六十七の歌>
式子と定家は寝衾にくるまったまま杯を重ねた。
心地よい互いの体の温もりと酒のもたらす酔いが二人を溶かしてゆく。
「定家様、ひとさし舞ってくださいませ」
式子が頭を定家の肩に預け、月から差し込む明かりをぼんやりと見遣りながら囁く。
定家は近くにあった手巾を引き寄せ腰に結ぶとゆっくりと立ち上がった。
「舞いましょうぞ、式子様」
「心にも あらでうき世に ながらへば恋しかるべき 夜半の月かな」
「さよう、いつか今宵のひと時を恋しく思いだされませ、式子様」
<後続六十九の歌>   

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