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【短編小説】心が通い合う関係

 女性の心の中をすべて覗き見ることはできない。
それは、深い井戸の中の光が届かない場所に冷たく湿った場所があるように、外見からはわからないのだ。
 サトルは、リエとアイコンタクトをして、勘定をすませ、三人は店をあとにする。サトルは、一方的ではあるが【心が通い合う関係に辿り着いた】とそう願った。

【リエの視点】
 まずは、リエの日常と過去について。
平日は、通学と土日はネットカフェでバイトして、休みもない。リエは30歳で看護師の卵ではあるが、世間的にはかなり遅咲きだ。でも、看護師になりたい。病気で苦しんでいる人を救う仕事をしたい。そう思って、看護の道を選んだ。
 彼女は、高校生までは優等生で、市内でもトップクラスの学校に通っていた。
 昔から、学校の成績は、5段階で4か5。実技科目も10段階で8、9、10をとっていた。しかし、高校三年生の時に、アトピー性皮膚炎を発症し、顔から首にかけて、赤いブツブツが出て、学校にも満足に行けなくなり不登校になる。
 
 当時からステロイド系の治療が、体に合わなくて、自然治癒力を高めるお灸や漢方を使ったがうまくいかず、親に迷惑をかけながら、治療を試行錯誤しながら過ごした。地面の穴の中を這うようもがき苦しむ。そして、23歳になると完治したのだ。今はまだ、消毒薬などを扱う場合は、肌荒れなどになったり肌は弱いけれど、日常生活に問題はない。
 そして、自分のような悩んだ人を医療により貢献したくて28歳になったことをきっかけに、看護の道を志す。もちろん医師の道も検討したが、高校を中退したので、医学部をこれから受験して六年間通学する経済的余裕も、時間もないのだ。
 しかし、看護の道は、二年間通学して、優秀な成績を維持したまま卒業できないと、就職先がないと言われている。プレッシャーの毎日だ。もちろん遅刻や風邪で休んだりもできない。健康管理も学校の成績もトップクラスであり続ける必要があったし、同級生には、国立大学を卒業して同じく看護の道をあきらめきれずに、看護学校に通う友達もいて、お互い切磋琢磨している。
 今日は、年の瀬でいつも通っている看護学校も冬休みに入り、ようやく自由になって、遊べる。
 そんな日の初日に、ネットカフェのバイトの友達と飲みに来ていた。バイトの友達は、ガールズバンドをしていて、服装も80年代のアメリカカジュアルファッションだ。
 彼女の友達から、「chocolate cafeっていう新しい業態の飲食店ができたらしいよ。しかも女性は、無料で飲み放題の食べ放題らしい。でも、男性客は女性客の席に混じって一緒に飲むんだって。」

新しい業態ということで、興味がわいた。
「 へー、面白そうだね。年末は休みがとれそうだから、バイト終わったら行ってみようよ。」
 年末の土曜日のバイト明けで、自由と開放感に満ちていた。そして、店に入ってシステムの説明を受けた。

「 ホントに無料なんだってさ。じゃあ、入って食べて待ってようよ。」 ビュッフェでスパゲティやら唐揚げやら、取り皿に取って、案内された部屋で待っていた時のことだ。

「どうも~。はじめまして、僕たちでいいですか?」
関西弁の男三人が入ってきた。
「 あー、ホントに来た。どうしよう。わたし人見知りだからうまく話せるかな。」

 リエは下を見てうつむいていたが、三人のうちの一人は、背が高くて、控えめな雰囲気だったから、興味を持った。昔から、人混みの中でも、見つけることができる背の高い人が好きだ。そして、のっぺりとして、くまのプーさんのような可愛らしさを持つ男性が好きだ。
 そして席替えを三回して、ついにサトルの席の隣になった。リエは、パーソナルスペースを守りたい方だが、サトルは、見た目とは違いパーソナルスペースにスッと入ってきた。そして、腰に手を回されたけど、不思議とあまり嫌な感じもない。

【なんでだろう。あまりこの人と話をたらリラックス出来る、くまのプーさんにも似た雰囲気だ】

 緊張感をほぐした会話も、興味をもって聞いてくれて、私の看護の道を応援してくれるっていう台詞も、ドリンクバーでカシスオレンジを取ってきてくれる気張りも気に入った。
「 見た目と違って以外に頭の回転が速いなー。」 心の中でそう思った。
「 わたしの友達にもデートの約束を公言されるし、約束をしてしまった。そして、私は、約束は律儀に守りたい方だ。」

看護学校の登校時間を守るのと同じで彼女は優等生なのだ。

「 1月18日ね。わかった。ネットカフェのバイトは友達にシフトを変わって もらうから大丈夫。」
サユリは、スケジュール帳に「 海へドライブ」 と書いた。

【次の居酒屋での次なる出会い】
 年の瀬は、自由を求めている女性が街を歩いている。街中央通りの交差点では繁華街に向かう人の流れと二次会、三次会へ向かう男女の複雑な関係性の新たなグループが出来上がり、初対面なのに笑顔が溢れていた。光輝くネオンは祝福するかのように、多くの笑顔を引き立たせる。

「つぎ行こうや、なんかサトルは盛り上がっていたなぁ、もう一軒行ってみる?」
「今夜は、久々に楽しいな。ナカノも転勤前に有終の美を飾ろうぜ。」サトルはご機嫌なのか上から目線で言う。

 ナカノは今日が広島の最後の夜なので、オールナイトを覚悟している。

「勢いって大事やな、じゃあ、お好み焼きビルの上にも、もう一軒あるから行ってみる?」
三人は、あたりを見回しながらを歩いていると、通りは人でスクランブル化していた、。年越しムードで歩く人々は、仕事も一段落して皆楽しそうだ。

サトルたちは、ビルの前で並んで待ち、最上階に上がると、待っている人でいっぱいだった。


「 めちゃ多いな。」 「 これは無理やわ。残念やなー。いったんおりようか。」エレベーターに乗って帰ろうとしていると、二人組のOL風の女性が後から乗り込んできた。

偶然は、運命につながる入口。
その入口がこの空間だ。まさに、千載一遇のチャンス到来だ。

 5人のエレベーターで密接空間となった。雰囲気的には、ここは、声をかけるタイミングだ。いわゆるナンパだ。20代の頃は、よくナンパをして飲みにいったり、カラオケに行ったりしたものだ。

「良かったら飲みに行きまへんかー?」
さすがは大阪の連れ、ナカノは、ナンパするのも大阪弁。二人組の彼女たちは、第一声で笑い始めた。

笑ってもらうと、つかみはオーケーだ、たまたま、二人組の一人も大阪から出張で来ていて、意気
投合した。「じゃあ、飲みに行きますか?」ナカノが確信を持って聞く。

「 うん。いいよ。うちらも、ちょうど飲み直すとこやから。」
お互い大阪弁だ。空いている居酒屋をさがすと、一階にある小料理屋がたまたま空いていたので、そのままなだれこんだ。

「へー、大阪なんや、自分も年あけたら、大阪に帰るねん、今日は最後の広島での飲みやから、想い出つくらせてーな。」ナカノはこのタイミングは運命とばかりに盛り上げる。

「そうなんやー、私はエステティシャンをしていて、会社ではマネージャーをしているの。中国ブロックが担当だから出張でよく広島に来るんだよね。」
彼女は、マサミさんという、敏腕マネージャーで、年齢は、僕たちと同じ頃か30代の後半くらいだ。その友達のアヤちゃんは、おとなしめで、マサミさんの後輩であることが、後にわかった。
そして、一階の小料理屋を覗いて、「大将、あいてる?」とナカノが景気よく聞くと、「あいてるよ!どうぞ。」そして、アラサーとアラフォーの五人組での飲み会が始まった。

まずは黒ビールで乾杯してから、三、四杯飲んだあたりで、
「この後、せっかくだからカラオケに行かない?」年末の年の瀬が迫る、23時頃。

「年の瀬だから、いいか。人生は短い!」と、五人組は、カラオケボックスへ行き込み合った受付を済ませ、部屋に入った。年の瀬のカラオケ店は、何かを求める若者が流れ込むようにごったがえしている。

 この席位置は重要なポイントだ。一次会で、どこまで、距離を縮められたかが試される。マサミとナカノはノリがよく、馬があっていた。とても良い雰囲気で、
「大阪に帰るんだったら、大阪でも会おうよ。」お互いにデュエットを歌いはじめていた、もうすでに二人だけの世界にはいっていた。

ふと、横を見ると、アヤちゃんが横で肩を寄せていた。「やばい、抱ける距離感。」

サトルは、手を繋ぎ、脇腹から手をくぐらせ抱き寄せた。

彼女も何かを求めているようだ。。

つづく。
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