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古本屋になりたい:35 続編が出ない

 〈バス=ラグ〉シリーズの二作目はまだかな…と今でも実は待っている、という人はどれくらいいるのだろうか。

 チャイナ・ミエヴィルの「ぺルディード・ストリート・ステーション 上・下」(ハヤカワ文庫SF 2012年)は、スチームパンクに、昆虫や鳥の飛翔のイメージを濃厚に絡めた長編小説だ。

 文庫版の帯には、若島正氏の解説の抜粋がある。

本書は、SF/ファンタジー/都市小説という小説ジャンルを統一しようとする試みである。

ジャンルフィクションが出会う場所/若島正

 作者の試みが成功しているとは、簡単に若島氏は書かない。
 解説は書評なのだから、褒めなきゃいけないわけでも、褒め言葉を使わないといけないわけでもない。

 褒め言葉いうと子どもっぽくなってしまうのだが、購入を悩む時に、訳者や解説者の「おもしろい」「わくわくする」みたいな、シンプルな形容に後押しされることがある。
 物心ついた時から翻訳ものは読んできたのに、まだ読みこなせないことが度々あるのが分かっている身としては、この本あなたにも読めるよ!と誰かに太鼓判を押して欲しいのである。
 簡単に言えば、読み切る自信がない。
 分厚いし、上下巻だし。

 解説によれば、「ペルディード・ストリート・ステーション」は〈バス=ラグ〉シリーズの第一作で、クラーク賞と、英国幻想文学賞を受賞している。
 発表されたのは2000年。2009年に早川書房から単行本が出て、2012年に文庫化されている。文庫化されたということは、単行本はそれなりに読まれたということだろう。

 2002年に第二作、“The Scar”が出ており、英国幻想文学賞、ローカス賞ファンタジイ長編部門を受賞している。
 2004年、第三作“Iron Council”が出版され、これまたクラーク賞、ローカス賞ファンタジイ長編部門賞を受賞。

 当然、第二作、第三作もいずれは翻訳されるのだろうと、勝手に思っていた。
 しかしなかなか発売の話を聞かない。
 改めて第一作の解説を読み直してみると、どこにも次回作が出そうなことは書かれていない。シリーズものの一つであることは触れられているが、三部作が続々刊行!とか、次回作も楽しみだ、みたいなことは匂わせてすらいない。

 そっか。
 数年越しに私は気づく。
 これは元々、この一作で完結させるつもりで日本では刊行されたんだな。
 少なくとも、文庫化された時点では、続編が出る可能性はほとんどゼロだったんだろう。

 確かに、「ペルディード・ストリート・ステーション」は物語として完結しているし、三部作だと意識せずに読んでも何の問題もない。
 それでも、なぜ私が、続編が出ないかなと今も待っているかといえば、何だかよく分からないところがあったからだ。
 面白くなかったわけではない。でも、めちゃめちゃ面白かった!絶対続きが読みたいっ!と渇望するほどでもない。
 何だかうまく世界観を掴みきれないまま、きっと次作を読めば霧が晴れるんだろうと思ったから、続きが読みたいのだ。

 面白くないわけじゃないけれど、何だかはっきりとこりゃ面白い!とならないところがある…。
 これが、第二作の日本語訳が進められなかった要因なのだとしたら、それはもう、仕方がないことだ。
 売れなかったんだよ、まあ、多くの人はそう言うのだろう。

 ハヤカワのSF、というジャンルが合わなかったのかなという気もする。チャイナ・ミエヴィルは、ファンタジー作家を自認しているそうだ。
 「ペルディード・ストリート・ステーション」は、もう新刊の紙の本では読めない。

 そういうわけで、無謀にも、私は原書を読み始めた。紙の本が見つからなかったので、電子書籍だ。

 学生の頃から、英語は得意ではない。
 全然喋れないし、聞き取れないし、覚えた単語は忘れているし、新しい単語は覚えられない。周りによく出来る人が多かったから、苦手意識もある。
 コロナ禍の自粛期間中、思い立って英語の勉強を始めたが、他の資格試験の勉強を始めて中断し、そのままだ。
 その後、日本語で読んだことがある「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」を読んでみようと洋書を購入したが、1ページにつき10回も辞書を引いているうちに疲れてしまった。分からない単語があっても進んでみよう、と考えるには知らない語が多すぎた。

 そして今また、性懲りも無く小説を英語で読もうとしている。「ムーミン」シリーズと「くまのプーさん」しか、長めの洋書は読み切ったことがないのに。

 「ペルディード・ストリート・ステーション」は、都市とその空で生きる者の物語だった。
 〈バス=ラグ〉シリーズの第二作、“The Scar”は、海が舞台だ、多分。
 前作と同じ、イギリスと思しき国の、ロンドンを彷彿とさせる都市ニュー・クロブゾンの近くに海があるんだな、多分。

 相変わらず、1ページに10回のペースで辞書を引いている。
 まだ冒頭の海の中の描写から抜け出せない。ここからずっと海の中なのかな。
 迷った時に頼りにする日本語訳はない。

 電子書籍で本を読んでいると、足のつかない深い海で泳いでいるような気分になるのだが、英語で読むとほとんど溺れているような気がしてくる。
 海の中の物語ならちょうど良いかな、と思っているが、そのうち溺れている夢を見そうだ。

 ストーリーにほとんど触れず、おすすめするような文章ではなかったけれど、チャイナ・ミエヴィルに興味を持った方がおられたら、「都市と都市」(ハヤカワ文庫SF 2009年)はいかがだろうか。
 東欧を彷彿とさせる、国境を接する二つの都市。モザイクのように複雑に絡み合う国境付近では、相手の国の住民は見えない、いないこととしてお互いが生活している。そんな中殺人事件が起こり、1人の刑事が事件を担当することになる…。
 私は、当時、バルト三国やユーゴスラビアのことなどを思い浮かべながら読んだが、今読むと、ウクライナやロシアのことを考えずにはいられない設定だ。

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