古本屋になりたい:8 どんな本を読むの？

　本を読むのが好きな人は大抵、どんな本を読むの？と聞かれたことがあると思う。
　みんな、どう答えているんだろうか。

　私は答えを持っていない。

　ミステリーとか歴史小説、とジャンルで答えれば良いのか。
　作家の名前を何人かあげれば良いのか。
　面白かった小説をいくつか挙げれば良いのか。　

　名前をあげても知らないかもしれない、知らない名前をあげたら場がしらけるんじゃないか、場を持たせるために聞いてくれただけかもしれないのに…、そんなことを大急ぎで考えて、結局、便利な名前を出してしまう。

「村上春樹とかかな。」

　嘘をついているわけではない。
　長編は全部読んだ。短編とエッセイは半分くらいだろうか。カポーティやフィッツジェラルドは、村上訳のも他の翻訳者のも読んだ。毎月ラジオも聴いている。
　ハルキストとは呼ばれたくないが、村上主義者なら名乗っても良い。

　どんな本を読むの？の最適解が村上春樹なのは間違いない。

　村上春樹が好きな人となら、すぐに盛り上がれるだろう。
　ノーベル賞のことで毎年話題になるから、本を読まなくても、名前を知らない人はあまりいない。
　「ノルウェイの森」は読んだけど他のはよく分かんなかった、という人も同世代か少し上に少なからずいるが、それなりに話は繋がる。
　最近なら「1Q84」や「騎士団長殺し」が話題になったことを知っている人も多い。

　もちろん、上手くいかないこともある。

　村上春樹って昔読んだけど、テニスとエッチなことばかりしてる話で、あんまり好みじゃなかった、と言われ、それほど親しくない上司だったので、それは村上違いですね、とも言えず、はあ、そうですか、とお茶を濁してしまった。

　村上春樹はよく読むし好きだけれど、それでは私の好みの全てを語れない。
　結局、私は、深い話を避けるために村上春樹の名前を利用してしまっているのではないだろうか。

　どんな本を読むの？と聞かれたら、新刊を必ず買うのは皆川博子と奥泉光、文体に憧れるのは須賀敦子、辻邦生、堀江敏幸も好きですね、古い探偵小説なら小栗虫太郎、こないだ読んだのは京極夏彦、古いSFならクラーク、ハインライン、最近のならR.Cウィルスンが好きですが新刊出ませんね、モンゴメリ、オルコット、ウェブスター、オースティンも好きですよ、どんな本を読むの、ってそもそも小説を想定して聞かれてると思うんですが、中公新書の新刊は必ずチェックしますし、ハヤカワのサイエンス系ノンフィクション、新潮選書も堅いです、みすず書房の本がもうちょっとお手頃になったら嬉しいですね、と答える準備をしているのだが、なかなかその時は訪れない。

　どなたか、聞いてくれませんか。