明治侠客伝 三代目襲名(1965)
明治侠客伝 三代目襲名(1965、東映、91分)
●監督:加藤泰
●出演:鶴田浩二、藤純子、大木実、津川雅彦、安倍徹、山城新伍、曽根晴美、山本麟一、遠藤辰雄、嵐寛寿郎、藤山寛美、丹波哲郎
少し前にYouTubeの「東映シアターオンライン」で無料配信していたが、U-NEXTでも観られます。
加藤泰監督の任侠ものとしては初となる本作、その題名通り明治の頃の話で大阪が舞台となっている。
俯瞰というよりも高いところから真下を見下ろすようなタイトルバック。
独特のフィックスショットとローアングルは非常に決まっており、嵐完寿郎が布団で横たわっている場面ではその奥のレーンに人物を配置させる構図を作っており、このような映像が何度か登場する。
娼妓である初枝(藤純子)が親が危篤なので帰省させてほしいと女将に頼み込むシーンではそこに居合わせた浅次郎(鶴田浩二)が事情を聴きに来るが、深く頭を下げたまま「へぇ」と返事をする初枝の横顔はカメラの位置よりも深く下がるため、画面から切れてしまう。
ここは当然カメラのミスなんかではなく、謙虚ながらもひたむきなまでに父を思う初枝の深い思いを表現していると言える。
典型的な任侠映画のフォーマットを取っているが、浅次郎と初枝の悲恋の行方にもフォーカスされており、次に初枝が登場するシーンでは川沿いを歩く彼女の足を凝視するようにカメラはローポジションを取っており、そこはかとない色気を醸し出している。
そして初枝は浅次郎に桃を手渡す。
この時の藤純子は普通の庶民の娘のようなナチュラルメイクになっていて、一瞬誰かわからなかったが、ものすごくキュート。
直後、初枝を身請けをすることになっている唐沢組組長(安部徹)に、その一件を知られて折檻されているところに浅次郎が助けに入る。
「おんどれ初枝に惚れたんか」
「ああ惚れた!惚れたらなんぞ悪うわけでもあんのか!」
瞬発的にこんな台詞言っちゃうんだからもう、カッコいいよね~
ここからの、3カットで二人が結ばれたことを時間経過と共に示し、シネスコ画面の端にそっと寄り添う二人のショットへの流れが秀逸。
浅次郎の三代目襲名式と、初枝が人力車に乗って身請けされに行くシーンとのカットバックが切ない。
終盤、浅次郎の秘めた思いを見かねて、初枝のところへ伝えにやって来た仙吉(藤山寛美)に対し、自分はもう唐沢の女で、あの人に迷惑をかけられないと涙ながらに語る場面では何か赤い野菜(トマト?)を握りしめている。
意味もなくこんな演出するわけないわけで、ここでは初枝と浅次郎の思い出の象徴の桃を想起させつつ、しかしもう自分の手にあるのは桃ではない別の物(=別の男)なのだという悲しみを表現している。
もはや任侠ものを舞台装置としたラブストーリーと言っていい本作だが、二人が一緒にいる場面は4回しかない。
しかも最後の最後の1回は言葉を交わすことはない。
その叶わない恋を燃やし尽くすようにして煙を吐き出す列車のショットで映画は終わる。
補足:「東映シアターオンライン」での配信は終わっていますが、紹介動画は公開中。
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