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ぼくのプレミア・ライフ(1997🇬🇧)

原題: FEVER PITCH(1997、イギリス、102分)
●原作・脚本:ニック・ホーンビィ
●監督:デイヴィッド・エヴァンス
●出演:コリン・ファース、ルース・ジェメル、ルーク・エイクマン、ニール・ピアソン

全てのアーセナルサポーター、いや、全てのフットボールクラブサポーター必読の書『ぼくのプレミア・ライフ』の実写映画化。

ホーンビィ自身が脚本をしているということもあり、偏執病的なまでのアーセナル愛と自らの半生を書きつづった原作と違って、アーセナルサポーターの男の恋愛ドラマを軸に作り替えた映画として十分面白いものに仕上がっている。


なぜかラーズの大名曲"There She Goes"から幕を開けるが、リリースされた時期が舞台となっていることで納得。(製作時は1997年でも、映画内時間は1989年。)

時折主人公のポールの少年時代も交えながら、なぜ彼がアーセナルファンになっていったかを原作を知らない人にも丁寧に描写していく作りだ。

確か原作にもあった気がするが、母親に買ってもらったレディング戦のチケットが相手側の席で、ビスケットを食べるファンたち(レディングと言えばビスケット)に囲まれるというシーンは笑った。

少年ポールが父親に、サッカーもそろそろ卒業しろと言われて断固拒否宣言する場面ではザ・フーの”Baba O'Riley”が高らかに流れる。

ちょうどリリースされた1971年で、しかも確かロジャー・ダルトリーがアーセナルファンだったのでこれもまたいい選曲だ。

現代のシーンでもサッカーのことしか頭にない男と、サッカーに無関心な女とのカルチャーギャップが繰り返し描かれていて、いちいちそれがおかしい。

サラが「ウルブス・ユナイテッド」(正しくはウルブス。ユナイテッドとか何も後ろに付かない)と言うのを、訂正しようかどうしようか一瞬逡巡したのちしかたなさそうに「ウルブス」と言ったり、「君も来季姉に会うんだろ?」と言われて「姉に”来季”はないわ」と返されたり、「君はジョージ・グレアムだ」「それって褒め言葉なの?」という会話とか。

劇中で何度か「これで優勝できたら18年ぶりだ」とか言っていてそんな長い間…と思ったが今のアーセナルだって優勝から19年経っているという事実に気づき、愕然。来季こそは優勝だ。

頻繁に当時の試合映像も流れていて、この時ノリッジ4位で強かったんだなあとか、当時はバックパスなかったんだとか新鮮な驚きがある。

映画終盤、サラがタクシーでハイバリー近くへと告げるも「録画してるから結果を知りたくないんだ。通りの様子でわかってしまう」と運転手が答えるところは分かる分かると頷いてしまった。

その終盤が最終節アウェイのリヴァプール戦。2点差以上の勝利がアーセナルの優勝条件で、後半ロスタイムのゴールで劇的な優勝を決めた試合だ。

ここの場面では、ポールとサラの二つのラインがまったくもって交差しないことを示している。

後半ロスタイム、彼に会いたいという一心でやってきたサラと、18年待った絶対逃せない一瞬にいるポール。

そのことについて映画の中で何かの解答を提示したりはしない。

二つのラインが交わったり近づいたりすることはないし、そのことがいいとか悪いとかでもなく、そういうものとして受け入れてからがスタートなのだ、というのはサッカーファンの子供じみた独りよがりな考えだろうか?(サッカーよりも恋人だろ!二つのラインが交われよ!ってほうが普通の感性のはず。)

ただ、アーセナルが優勝したことによって心にゆとりができたポールの姿を最後に描いているのが、ほんの少しのハッピーエンドかな。

でも、じゃあアーセナルが優勝しなかったらどうなってたのよと聞かれると痛いところであるが…

DVDには特典として海外サッカー中継でおなじみの西岡明彦、有澤真庭(字幕翻訳)、山中久美子(映画ライター)3名によるコメンタリーが付いている。

サッカーはあまり知らないけどコリン・ファース大好きな女性二名と、男代表としての意見をしばしば求められる西岡氏のやり取りがおもしろいので必聴だ。

チャプターシートの裏にはアーセナルの歴史も記載されていた。こういうオマケ的なのがついてると嬉しいですよね。

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