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吶喊(1975)

吶喊(1975、喜八プロ=ATG、93分)
●脚本・監督:岡本喜八
●出演:伊藤敏孝、岡田裕介、高橋悦史、伊佐山ひろ子、千波恵美子、坂本九、岩崎智江、今福正雄、伊吹新、小川安三、長谷川弘、丹波義隆、粕谷正治、藤田漸、天本英世、堺左千夫、村松克巳、樋浦勉、小野寺昭、岸田森、大木正司、田中邦衛、仲代達矢、木村博人、山本廉、北見治一、草川直也、川口節子

岡本喜八監督の映画はほとんど観たことがなかったけれど、U-NEXTにあったので観てみた。

舞台は戊辰戦争時の会津。

主役はどちらも百姓の、千太と万次郎。

戊辰戦争って結局「勝てば官軍負ければ賊軍」という言葉があるように、どっちが頭を張るんだということを決めるだけの内戦(=壮大な内輪揉め)で、結果的に錦の御旗という人工的に作られた威光と圧倒的な戦力により新政府軍が勝ち取った戦争なので、負けた側に滅びの美学のような悲劇はあったとしても英雄譚的なものはない。

冒頭で仲代達矢演じる土方歳三が登場するが、あの飄々としたシニカルな演技が”鬼の副長”的なイメージとは程遠いし滅びの美学的な雰囲気は微塵もなく、なるほどそういう映画なんだなとまず受け止めた。

幕末時代劇にありがちな重厚なBGMはなく、カットのテンポが早くて小気味いい。

「せっかく洗った足を汚すつもりかい?」の台詞の直後に足を洗うショットを入れたり、千太が昏倒から目を覚ますと枕もとで刃物を研いでいるというショットをリフレインにしていたり、千太が万次郎を見て「敵だか味方だかわかんなくなってきた」と言うシーンでは"見え方が変わる"ことを暗示するように格子越しに撮られていたりと、色々凝った映像が出てきて面白い。

戊辰戦争の東北方面の知識はほとんどなかったので、世良修蔵とか、メインキャラクターの一人、細谷十太夫や、カラス組のことなどを知れて良かった。

映像は基本的に千太と万次郎を軸に動くので、その世良修蔵襲撃や、阿武隈川の河原での処刑も傍観者としての視点がセットされている。

というか、坂本九演じる老婆による語りという導入から始まっているので、そもそもが第三者的な視点をあらかじめ与えられた映画だと言える。

処刑のシーンも実際に首が飛び跳ねるリアルな演出だが、千太が身請けした女郎のテルに暴漢に襲われたときの撃退法として金玉を蹴り上げる練習をさせている呑気な場面と交互に映している。

戦争そのものではなく、戦争の渦中でそれぞれの思惑と欲望に沿って動き回る人たちを描いた映画。

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