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関東無宿(1963)

関東無宿(1963、日活、93分)
●原作:平林たい子「地底の歌」
●監督:鈴木清順
●出演:小林旭、伊藤弘子、平田大三郎、松原智恵子、伊藤雄之助、中原早苗、殿山泰司

ブルーレイで観てみたシリーズ。

小林旭演じるヤクザの勝田を主人公とした映画。

若い割に昔気質のヤクザである勝田が組の勢力の後退を憂いながら、敵対する吉田組のヤクザの姉、岩田辰子(伊藤弘子)に恋をするという話を主軸にしながら、売られてしまった組の親分の娘トキ子(松原智恵子)の同級生、花子(中原早苗)やびっくり鉄(野呂圭介)との絡みをコミカルパートとして随所に挟むというような構成。

中原早苗、松原智恵子、進千賀子の3人のセーラー服姿の女子学生の会話という、第三者の視点から始まる任侠映画。

組の抗争や縄張り争いというのは表面下では行われているけど、実際にヤクザ同士のケンカのシーンとかはほとんどない。

映画全編を通して太鼓の音とか祭囃子の音、拍子木の音、ラジオから流れる浪曲、学生たちが歌う歌など何かバックに音が鳴っているというシーンが非常に多い。

クライマックスで勝田が賭場に来た敵組二人を斬る場面、まるで舞台を見ているような引きのワンショットで、斬った後に背景がバッと赤くなり血を表現している。

このあとに雪の夜の道を持ってくるところが最高だ。

しかし何度か風鈴が鳴っている場面があったり、柿が木になっていたり、すすきと団子があったり季節(時空)を超越した美意識の世界だったことがわかる。

そしてこの赤の衝撃の余韻の中、雪の道を進んで勝田が向かった先は吉田組。

そこで目に飛び込んでくるのは大きな赤い提灯。さきほどの賭場での場面では白い丸型電灯が揺れていて、ここでも白と赤の対比がなされている。

冒頭、トキ子が勝田に意味を聞くシーンを始め何度か出てくる赤き着物(囚人)と白き着物(組のために命を張る)のイメージとの共振である。

冒頭の刺青を入れる場面の妖しい色彩、勝田の部屋で辰子と二人でいるときの紫と黄色の空などで"非現実な舞台空間"であることが所々で強調されるが、途中何度か画面上に走る謎の線?という映像技法によって、"舞台空間のような演出をする映画"なのだ、と再確認させられる。

ほとんど表情を変えない小林旭がかっこいい。

たった一人、彼自身が信じる非現実的なヤクザの世界に生きている。

当時18歳の松原智恵子が凄く可愛いんだけど、出番は少ない。

劇中でかなりの美人として描写されている花子に関しては演じている中原早苗はどちらかというとファニーなかわいさというか……、ドナルドダック的なコミカル演技をしているので違和感があったが元々は松原智恵子が花子役だったという解説を見て納得した。

ブルーレイの映像は非常にきれいで、花子の赤いスーツとかトキ子の青い服もビビッドに映る。

ちなみに予告篇も異様なまでにカッコイイ。

補足:
このブルーレイには収録されていないが、2006年発売のDVDボックスには清順監督、野呂圭介、評論家の佐藤利明の三者によるオーディオコメンタリーが収録されている。そっちも改めて確認してみた。

相変わらず「へ~」「そうなの」連発の監督。

"演出の意図"に関することは何にも語ってくれない。

「動きは全部俳優さんのものですから」という発言のあと、野呂圭介が撮影時のエピソードとして芝居のプランについて監督に提案すると「どれが好き?」と聞かれ「僕はこれがいいと思います」と言うと、「じゃあそれでやればいいじゃない」と言われた、という話をしていたのが面白かった。


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