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ポリー・マグー お前は誰だ(1966🇫🇷)

原題: Qui êtes-vous, Polly Maggoo?(1966、フランス、100分)
●脚本・監督:ウィリアム・クライン
●出演:ドロシー・マッゴーワン、ジャン・ロシュフォール、サミー・フレイ、フィリップ・ノワレ、グレイソン・ホール、ジョアンナ・シムカス、ペギー・モフィット

ファッション写真家として著名なウィリアム・クラインによる作品。

アルミ板を服に見立てたファッションショーで幕開け。

それを称賛の拍手で鑑賞するファッション誌編集者を始めとするマダムやマスコミたち。

これはファッションとはすなわち工業(…原料を加工し付加価値をつけて売ること)と同義だとみなしているのだろうか。

主人公となるのはマヌカン(今でいうスーパーモデル)のポリー・マグー。

『Qui etes-vous』(お前は誰だ。vousだから厳密にはあなたは誰ですか?かな)という密着ドキュメンタリーの撮影班やディレクターのグレゴワールの視点で進む。

さらにボロジナ王国のイゴール王子からの視点も同時進行し、そこにポリーの居場所を探し回る王子の密使二人組も絡んでくる、という複層的構造を持つ映画。

大量生産と大量消費、「存在」の証明、マスメディアによるポリー自身の肖像の消費・浪費という現代的テーマが含まれている。

プロデューサーは「メークの下の真実を探し出せ」とディレクターに指示する。

当然ながら物語が進めば進むほどフィルムの編集、つまりポリーが切り取られ、貼り付けられといった作業は進んでいく。

ベッドの上で食器のプレートを蒲団にのっけ、ノーメイクで美顔器を鼻のそばかすに当てながら秘密の日記をテープに吹き込むポリーの姿は現代っぽいというか、スマホ使って匿名の音声配信をしてるような場面に見立てても成立する。

社会学者によるシンデレラ論が表すように、若い女性のシンデレラ的妄想と、それに絡めとられた男たちによる王子的妄想を戯画化した映画とも見て取れる。

社会学者とグレゴワールとの会話で、「少女たちがモードに目覚め社会が追随する」といった言葉が出てくるが日本の女子高生ブームとかそういった現象も想起させる。

シーンが突然切り替わりあまり説明もないし、時折舞台演劇みたいな演出も入ったりするので注意深く見ていないと構造の整理がつかない映画である。

作中で王子とポリーが実際に邂逅することはなく、会ったとしても全てどちらかの妄想の中である。

王子がポリーによるポリーという本を読んで直後のシーン(ポリー王妃歓迎の場面)は王子の妄想。

ポリーがシャワーを浴びてるシーンからの一連の流れはポリーの妄想の中のイゴール王子。

切り絵みたいに飛んだ先に向こうに別荘があると言いつつ白馬に乗って去ってしまった王子、そこでポリーが入った家にいたのはグレゴワールとその家族。

絵本の世界から投げ落とされ、自分の目の前にいる相手は王子様なんかではなくグレゴワールという男だったという現実、という悲しい夢。

そしてそれもすべてはテレビの中だった。

そんな現実すらも虚構なのだという事実。

そして密使による橋渡しは成功しポリーには王子の写真、王子に送られた小包には例の秘密の日記のテープが入っていた。

そこで再び王子の妄想発動、ポリーが出現しコスプレ七変化。

『おまえは誰だ』は終わり、次回のパウロ6世の映像に変わったところで再びボロジナ王国パートへ。

そしてグレゴワールは今度は王子への取材へと移る。

王子はセーヌ川の銅像とか石鹸工場とかマヌカン養成所とか当たり障りのない視察をこなしていく。

すでにポリーに恋をしていたグレゴワールまでが自身が王子に変身した妄想をし出す始末。

ポリーの部屋へ尋ねにいった王子だったが、すれ違いにより会えず、ポリーもイゴール王子の歓迎パレードを観に沿道へ行くが当然会えない。

公的な外遊の中王室の若者が抜け出して街をさまよう…というと『ローマの休日』の逆版を思い出すがこちらは出会うことすらかなわない。

王子はポリー不在を知らせてくれた隣の部屋のエステル(ジョアンナ・シムカス)のほうへとアッサリといってしまい唐突にこちらのラブストーリーが展開する。

「ひどすぎる 出会えたはずなのに だからこれでおしまい」という悲しげな歌で映画は終わる。

あらすじを並べたけどこれだけ読んでもよく分からないでしょうね…。

ラストはあまりの脈絡のなさに衝撃を受けてDVD3回くらい繰り返し見ました。

やはり王子様は現れないし、シンデレラも見つからないということを伝えたかったのだろうか。

皮肉に満ち溢れているが、映画全体のムードとしては非常におしゃれでポップでスタイリッシュなムードをまとっているので60年代フランス映画好きにはたまらないと思う。

しかしやはり構成が複雑なので安易な気持ちで、ながら見とかはできない、そんな映画。

DVD(旧規格)の封入物はチャプターシートとアンケートハガキくらいだったけど、ジャケ裏にはピチカート・ファイブの野宮真貴のコメントが載ってた。

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