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アウトレイジ(2010)

アウトレイジ/OUTRAGE(2010、「アウトレイジ」製作委員会、109分)
●脚本・編集・監督:北野武
●出演:ビートたけし、椎名桔平、加瀬亮、三浦友和、國村隼、杉本哲太、塚本高史、中野英雄、石橋蓮司、小日向文世、北村総一朗


大杉漣も寺島進もいないヤクザ映画。

ヤクザたちの横ナメで始まるオープニングからしてわくわくさせるものがあるが、そもそもあの場面は何の会合なのだろうか?

劇中では何も言及されていないし明確には判明しないが、大勢(ほとんどが國村準と同年代かそれ以上の高齢者ばかり)で会席料理を囲むシーンがわざわざ撮られていたり、現役とは思えない杖をついた老人もいたり、さらには映画全編を通してビートたけしがこのシーンだけ黒いネクタイを締めている(トップ画像↑)。ネクタイを締める時と言えば普通は何かの式典とか冠婚葬祭だ。

これらのことから、もしかしたら法事ではないだろうか?

ゴッドファーザー』は結婚式で始まったが、『アウトレイジ』は法事で始まるのである。

アバンが終わり、タイトルバックは走る黒塗りの車を真上からスチルショット。

映画のテンポはとてもよく、台詞の応酬含めて小気味いい。

今までの北野映画にあったような“台詞のない気持ちの悪い間”みたいなのは感じないし、過剰に突発的な暴力もない。

例えば水野(椎名桔平)たちがラーメン屋を訪れるシーンなんかももっと気持ち悪いテンポにもなりえそうだし、サウナで大友(ビートたけし)が村瀬(石橋蓮司)を撃つシーンも大友が銃を構える→おびえる村瀬の顔→ドンドンドンというカット割りになっており、今までの北野映画のパターンでいけば溜めもなくワンショットでいきなりドンもありだと思うが、あえてそうしていないようである。

その後の死体をじっくり舐めるように映すシーンは黒澤明の『影武者』の馬の死体をじっくり映すシーンを思い出した。

テンポが良いので時折繰り出されるギャグも印象に残る。

北野映画でのギャグと言う意味なので、フォロー(ツッコミ)のない乾燥した、笑いのないギャグということであるが、例えば『BROTHER』のいくらなんでも救いのなさすぎるブラックギャグ(大杉漣の切腹とか、寺島進が死ぬ場面)に比べれば全然安心して笑える。

グバナン大使が出てくる場面は必ずコメディになっている。

顔を切られた木村(中野英雄)に対して「恥ずかしくねーのか!」と言っていた村瀬が、自分はもっとみっともない姿にされるという見事なフリの回収。

指の入ったラーメンや、律義に靴を脱いで台に上がる殺し屋など、なんか笑えるような笑えないような、笑えないような笑えるようなくすぐりが多く散りばめられている。

大友組潰しが始まると刺客たちによる粛清が連続して映し出され、その緊張感は水野の死でピークに達する。

未明から明け方の青みがかった灰色の空の下、ロングショットとローアングルを駆使しつつ、息が詰まりそうなほどの冷酷で無慈悲な殺しがあまりにも淡々と行われる。

水野と言えば大友の取り調べの同行で警察署でたばこを吸うシーンが2度現れるが、一度目は普通にたばこを吸って目の前の警官の足元に投げてそのままニヤリ、二度目も同じことを行うと強面ベテラン刑事らしき人が「何やってんだ!拾え!」と叱責。

さすがの威圧に水野も一旦はたばこを拾うが、走り出たその車に向かってたばこを投げつける。

このシーンもギャグとして捉えるべきか、あるいは何かを示唆していたのかは謎。

走る車を追いかけるというのは彼の最期を彷彿とさせるし、警察と懇意になれないヤクザは生き残れない、ということを暗示しているのかもしれない。

ラストシーンがまさにそれを物語っている。

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