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ひなぎく(1966🇨🇿)

原題: Sedmikrásky(1966、チェコスロヴァキア、75分)
●監督:ヴェラ・ヒティロヴァー
●出演:イトカ・ツェルホヴァー、イヴァナ・カルバノヴァー


回る歯車と戦争のモンタージュで始まる。

「女の子映画」と宣伝されているが、映画全体がモンタージュ的なこの作品を紐解くうえでは言語的な論理性では太刀打ちできず、…と思いきや時折タイプライター風にト書きのようなものが挿入されるという理屈で考えようとするにはやや難解な映画。

これもナンセンスなことではあるが、映画内で起こる事態を順番に記していく。


機械か人形のような動きで二人の娘が現れるが、名前はマリエなのかユリエなのかわからない。どちらの呼称も出てきた気がする。

ついついチェコ=マリオネットというステレオタイプな見立てを発想してしまう。

ひなぎくの咲く野原に大きなリンゴの木がなっている。

化粧室の場面から、この後何度か繰り返される、レストランでおじさんと食事をし、列車の時間だと言って騙して巻くというシーンへ。

基本的に二人が移動する場面というのは描かれず急激な場面転換が特徴的。

キャバレーでのダンスの邪魔をする。

部屋にて。足を紐で縛る。

レストラン。またおじさんを騙すシーン。

裸のユリエとピアノを弾く男。

「どれほど君を愛してるか」。蝶の標本が小道具として出てくる。

再び化粧室。

バーにて。「砂糖を取りに行ってる間に盗んだ」

部屋にて。短冊のような紙を燃やす。舞い降りる炭と灰。

切り刻まれるきゅうり、ソーセージ、ゆで卵、バナナ。

レストランの化粧室。またまたヒゲのおじさんを騙す。

この時二人は列車の煙で顔面真っ黒。

部屋。スイカを切る。

壁と天井に描かれた落書きとタイポグラフィ。

プール。

再び先ほどのキャバレーのホールで。椅子を担いで踊る。からの化粧室へ。

部屋で。
「男はなぜ愛すると言うかわりに卵と言えないの?」

お風呂。

「今私たちがこうしてて自分じゃない確信ある?」

「何もないもの」
「何かあるの?」
「何かしなくちゃね」
「でも何を」

再び化粧室。

「何でもやんなくちゃ」

野原を転げ回る二人。

そしてオープニングで出てきた歯車が登場するが、これといった伏線回収というわけでもなくアッサリ通り過ぎる。

養蜂農家を覗き見る。

とうもろこしを盗む。

自転車で行きかう労働者たち。二人の姿に気づかないというより黙殺、存在しないものとして扱っている。

終始この二人の、世界における存在というのはそんな感じだ。

いてはならないものとか、除け者的存在。

二人の女の子による無意味な遊びだけで繋がれたこの感じ、『セリーヌとジュリーは舟でゆく』を思い出した。


「生きてる 生きてる 生きてる」

部屋へ。何度も布団にくるまれる。

脈絡のない行動が延々と続くにつれて、この二人の行動原理は?どこへ行きつく?そもそもなぜこういった映画が生まれた?

何のためにこの映画を製作した?

なぜこの映画は存在してしまった?

というワケのわからない疑問でいっぱいになり、この感覚って何だろうと考えたときに子供のころに「なんのために自分は生まれたんだろう」とか「なんで人は生きているんだろう」と考えていたことを思い出した。

そんな幼くも根源的な「なぜ?」という問いがこの二人の秩序を破壊するようなエネルギーの元にもなっているように感じた。

はさみを持ちフィルムが切られ生首どころかバラバラ、まさに支離滅裂。

エレベーターから見えるのは肉屋?オーケストラ?

豪華なディナーホール。誰もいない晩餐会。テーブルの上のファッションショー。

シャンデリアから落ちた二人は水の中、助けを求める。

ト書き「破壊されたものを元に戻すことはできるのか?」

ト書き「最善を尽くせたとしても出直すことは可能なのか?」


部屋を破壊した罰を受けるかのように二人は戻り、片付けをする。

ここのシーンだけは、この二人の行動の前段落との明確な論理的な繋がりが感じられた。それくらいにこの映画は全編通して前後関係が支離滅裂な繋がりで作られている。


「踏みにじられたサラダだけをかわいそうと思わない人々に捧げる」

最後の言葉の意味は何となく分かるが、つまりこの映画の中で言いたいことがなんだったのかはよくわからなかった。

二人は生きている。

人形のような動きをする時もあるが(それこそが「生きた人間」であることの反語的な誇張か?)まぎれもなく生き生きと、描写されている。

人が生きるということは何かの犠牲の上にあり、殺生と破壊の上に生活が存在している。

冒頭と終盤の戦争のモンタージュがそんなことを言っているような気がしてくる。

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