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自前のクーラー

 一日で一番、暑い時間帯に二階の自室で執筆をしている。ペンと紙はとうに捨てた。筆記用具はノートパソコンに取って代わられた。書き上がった文章をプリンターで印刷することもない。茶封筒に入れて郵便局に出向くこともなくなった。
 専用フォームから一括で送信。その後、一度も顔を見たことがない相手と文章で遣り取りをして終わる。住むところを選ばない。自由で孤独な作業を何十年も続けていた。そのような代わり映えのしない日常に反し、世の中は騒々しく変化してゆく。
 熱中症が危惧される温度なので日中は出歩かず、クーラーの効いた部屋で過ごすことを喚起する。一方で家に籠るとフレイルになる可能性が高まるので運動を声高に推奨した。
 矛盾しているように思えて頭がこんがらがる。そこで自分の行動が、一番、正しいと思い込むことにした。そこで気になるのが部屋の温度。デジタルの置時計を見ると33℃と表示されていた。ノートパソコンの排熱効果もあって、それ以上の暑さを感じる。木製の床や壁がパチッと乾いた音を立てた。屋内にいて屋外のキャンプ場でまきを焼いている気分になった。
 エアコンは一階にしかない。無駄に二台も設置している。故に通常は扇風機が活躍するのだが、昨年、無理が祟ってお亡くなりになった。十四年くらい使っていたので大往生と言えるだろう。
 そこで今年の暑さは思い付いた秘策で乗り切る。この方法はかなり効果的で、最初の冷たさに慣れてしまえば一日に何度でも実行できる。節電どころの話ではない。一切、電気を消費しない。究極のエコではないだろうか。エゴではない、たぶん。
 実践の為、私は部屋を出て一階に下りた。取り敢えず、洗面所で水を溜める。高さは十センチくらいだろうか。着ていたTシャツを脱いで浸す。ぐっしょりと濡れたところで絞る。水が滴らない程度の力にとどめて、そのまま着れば仕込みは十分。
 いそいそと二階の自室に戻って執筆を再開する。全開にした窓から入り込む生温い風は、水気を帯びたTシャツの効果で冷風に変わる。この状態が二時間くらいは続く。乾けばまた濡らせばいい。二階と一階の往復は軽い運動になり、エコノミー症候群の予防にも繋がる。
 三往復を視野に入れて今日も私は執筆に打ち込む。その合間に今回のテーマである「未来のためにできること」を書いた。投稿の際に迷ったが相応しい内容と思い込むしかない。

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