【詩】うつろい
夜明け前に鳴いていたヒグラシがいなくなった
朝になってもセミの声が聞こえない
重々しい窓を開けた 網戸にして顔を近づける
トマトの葉の匂いが鼻をくすぐった
目の前をクロアゲハが横切る 顔を寄せて目で追う
静かに一変した 網戸に区切られた個々が集まって
色鮮やかな世界が構築されていた ドットの寄せ集め
自然を装った不自然が際立つ ゲームのような世界
僕は網戸に指を引っ掛け 思いっきりスライドさせた
飛び出すと世界は繋がった 懐かしいセミの声が蘇る
リセットできない世界は美しく 目の中で淡く滲んだ
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