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5mの恥 【2分で読めるショートエッセイ】

私には子供の時からくだらないことに注力する癖があり、日常の些細なシーンを文章にするのもその一つである。書かないまでもイメージしているのだ。例えばこうだ。

車を運転していて信号待ちなどで前の車に続いてゆっくり停車する。前の車との距離はいつもどおり80cmだ。私の後ろにも後続車が連なろうとしている。しかし私の車が完全に停車した次の瞬間、止まっていたはずの前の車がブレーキランプをつけたままそーっと前進する。自分の前に5mほどの空間が出現する。周囲から見れば

「無駄に車間距離空けて停まる人いるよね」
とか
「運転下手な男性ってかっこ悪いよね」
など

ひそひそ話が聞こえてきそうなシチュエーションであり、甚だ不本意である。しかし、私がここで前車と同じ行動をとってこの5mを詰めてしまうと、今度は私が後続車にこの恥をなすり付けることになる。後続車も詰めたらその恥はさらに後ろへ。
私にとってこの5mの恥を後ろへ伝染させることはもっと不本意である。ならばよかろう、今一時この恥は私が引き受けよう。
愚弄も嘲笑も甘んじて受けようではないか。今日はいいことをした。私は負の感情の連鎖を未然に防ぐという良い行いを実践できたのだ。

 といった愚にもつかないことを考えているうちに信号は青に変わり、前に続いて車を発進させる。もちろんこの性分がもっと実用的な場面で発揮できればと思ったことは一度や二度ではない。

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