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20th Century Boy


#はじめて買ったCD
 小学3年生まで団地に住んでいて4年生になるタイミングで引っ越した。団地にはシゲちゃんという高校生のお兄ちゃんがいたが5月になっても革ジャンを着てるような、絵に描いたようなロックかぶれだった。
 「あんまりシゲちゃんと仲良くしちゃだめ」と母親達が言う中
 「おい、すごいのあるぜ」
と、シゲちゃんに誘われるのが楽しみで仕方なかった。彼の部屋に入るなり目に入るのが壁一面にディスプレイされたLP盤だ。当時音楽番組といえばザ・ベストテンのようなものしかなく、テレビの中のアイドルなんかを見て子供心に
「かっこいいいか?これ」
と思っていた。LP盤の名前なんて分からないがそれらはカッコよかった。
シゲちゃんの家に遊びに行くと必ずポテトチップスとコーラをくれる。今思えば楽しみはそっちだったのかもしれないが、彼はたくさんの音楽を僕に教えてくれた。シゲちゃんはRolling stonesのキース・リチャーズ推しだ。テレキャスターというタイプのギターの音がいいと言うが、僕が毎回かけてほしいとせがんだのがT-REXの20th century boyだ。レコードに針が落とされ、出だしのEm一発、それだけで僕は完全に夢中になった。稲妻に撃たれ体中の血液が沸騰して世の中にこんなにもかっこいい音楽があるのか!とエアギターをしながら意味不明のシャウトを連発している僕を見てシゲちゃんは笑い転げた。
 
 僕が引っ越す時にシゲちゃんは
「お前はバカだから大人に騙されんなよ」
と言って、僕が好きだった曲をたくさんカセットにダビングしてくれた。
テープが擦り切れ、音がグニャッとなるまで毎日毎日聞いたそのカセットテープのラベルには「Rolling stones」と書かれていた。
 
5年生になりお小遣いを握りしめ意気揚々とCDショップに入ったものの20th century boyのリストが見当たらない!「R」の棚を全部ひっくり返して探すがどこにもない!見かねたショップのお姉さんが
「何かお探しですか?」と声をかけてくれ、あの有名なギターリフを口ずさむと、とんでもなく流暢な英語で歌いながら「T」の棚に手を伸ばし2枚のアルバムを出してくれた。店員のお姉さんの腕は白く、伸ばした手がしなやかで見とれてしまった上に、僕の所持金では一枚しか買えないので、本当に顔から火が出るほど恥ずかしかくなり曲目が多い方を選んで早足にショップを出た。T-REXというアーティスト名も、初めて聞いた3年生の時からきちんと覚えていたか怪しかった。シゲちゃんがくれたカセットのラベルにすっかり騙され、僕はずっとT-REXをRolling stonesだと思っていたのだ。
 
やられた
シゲちゃんの悪い顔が目に浮かんだ。

CDはいい。何回聞いても30年以上経っても擦り切れないから。あの頃の思い出と同じように。

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