誰も教えてくれない、理学療法士と作業療法士の決定的な違い
先日、後輩作業療法士が精神科訪問看護基本療養費算定要件研修に参加した。簡単に説明すると、精神疾患のある人のところへ訪問看護をする場合に必要な精神科の基礎知識を習得するための研修だ。
大して特別な講習ではなく、ほとんど学生時代に授業で習った基礎的な内容ばかりだが、離れていると忘れてしまう専門知識も多いので改めてその復習をする訳だ。そして、この研修を受けられるのは看護師と作業療法士のみと決まっている。
研修や勉強会に参加すると伝達講習をするのが医療業界では一般的だ。後輩作業療法士も事業所が用意した伝達講習の場で研修の内容を発表した。
最後に質疑応答の時間となって、事務スタッフから質問が上がった。
「なぜ精神科の研修を受けられるのは作業療法士だけなのですか?恥ずかしながら、理学療法士と作業療法士の違いがよく分かりませんのでご教授頂けたらと存じます」
リハビリテーション専門職には、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の3職種がある。このうち、理学療法士と作業療法士の違いが特に分かりにくいとどこに行っても言われるから、それぞれ自分なりの解答を持ち合わせて働いているのだろうと思っているが、それにしても後輩作業療法士の解答がお粗末なもので驚いた。
「この研修を作業療法士が受けたのは、今回たまたま作業療法士のみが対象だったからで……」
その場にいたほとんどの理学療法士、作業療法士がざわついた。そしてひとりの理学療法士が、後輩作業療法士の言葉を遮り話し始めた。
「えーと、違います。精神科訪問ができるのは、作業療法士だけです。なぜなら作業療法士は、『心身』に障がいを有するものに対してリハビリテーションを行う職種だからです。これに対して、理学療法士は『身体』に障がいを持つものを対象にしています。ですから、理学療法士は精神科訪問を行うことができません」
極めて教科書的な模範解答だが、抽象的であることは否めず、当然事務スタッフはおよそ理解したとは思えない反応をしながら質問者としての身を引いた。
インターネットで理学療法士と作業療法士の違いを検索して出てくるのは、大抵こういった文言だ。あるいは、理学療法士は『立つ』『座る』といった基本動作を中心にアプローチを行い、作業療法士は『トイレに行く』『風呂に入る』といった生活動作の獲得に重きを置くという住み分け方もよく目にする。間違いではないが、半分正解という印象だ。
そもそも理学療法士が『身体』のみにアプローチすると職業だとするならば、会話もせず目も合わせず黙々と身体のメンテナンスを行うだけの職業ということになってしまう。しかし実際にはそんなことはできるはずがない。対人間である以上、挨拶から始まり自己紹介をして、目標設定を擦り合わせながら訓練に取り組むことになる。意欲が削がれたら話を聞き困難にぶつかったら励まし、共に目標達成に向けて努力をする意味では、理学療法士も立派に『心身』へのアプローチを行っていることになる。
基本動作と生活動作での住み分けに関しては、勤務先によって大きく異なる。療法士が何百人もいる大きな回復期病院であればそういった住み分けもできようが、小さな組織ではそうはいかない。増してやひとり職場ともなれば、職種にあぐらをかかず全てを賄わなければならなくなる。そのため、基本的には正解だが完全ではない、と個人的に思う。
理学療法士と作業療法士の違いを聞かれた時、私はこう答えるようにしている。
“理学療法士はPhysical Therapist、直訳すると身体療法士です。作業療法士はOccupatinal Therapist、直訳すると職能療法士です。
作業療法は、精神科病院で精神疾患者に対して職業復帰訓練をしたことが起源だと言われています。だから、作業療法学科の必修項目には精神医学、心理学、臨床心理学等が含まれており、精神障害に対する作業療法について学びます。対して理学療法学科にこれらの必修科目はありません。
また、作業療法学科は精神科病院での実習が必修となっており、そこで精神疾患者に対するリハビリテーションを実践的に学びます。この実習に合格しないと、国家試験受験資格が得られません。当然、理学療法士に精神科実習はありません。
他に、理学療法学科で学ぶ科目として、整形外科等で使用するホットパックやパラフィン浴等の物理療法やテーピング等があるようですが、作業療法学科ではこれらを詳しくは学びません。”
胸を張ってこう答えられるのは精神領域に自信のある作業療法士だけかもしれないが、双方の具体的な違いを少しは理解して頂けただろうか。