ESくん
もう半分ちょうだい。
EMちゃん
ちょっと止めてよ、『もう半分』なんて。昔パパが話してた落語の怪談話
を思い出すから。
網口渓太
また渋いなぁ。お金をとってしまった夫婦のあいだに生まれた子どもの顔が、お金をとられて川に身投げをしたおじいさんにそっくりだったていう話しだよね。
ESくん
うわ、こっわ。じゃあ、三分の一!
網口渓太
おじいさんは八百屋で、忘れたお金はニ十歳になる娘さんが、吉原に身を
売ってまで稼いだお金だったんだよね。それは、化けて出ても仕方がないよ。
EMちゃん
そうよ、ワタシのサラミピザも、ワタシが稼いだお金で買ってるんだから、化けて出るわよ。
ESくん
こっわ。じゃあ、梅が入ったおにぎりと交換ってのはどうよ?
EMちゃん
その交換条件なら、辛うじてゆるす!
網口渓太
無事邂逅したね(笑) ふたりのやりとり観てるといつも、グレゴリー・ベ
イトソンが書いてた『ナヴェン』を思い出すんだよな。
このナヴェンの話しは、前回の(→8-1)の千葉さんの『意味がない無意
味』のギャル男の話しの引用ともとても通じていて、面白いよ。やっぱり、
意味がある無意味だけでは真面目過ぎてしまって“殺伐”としてしまうから、
意味がない無意味を挟んでユーモアで解放するようなバランスが必要なん
だろうね。社会も世間も、管理で窮屈になるほど“殺伐”とした空気が漂う
よね。ふたりは、梅おにぎりのおかげで解消したみたいだけど(笑)
EMちゃん
完璧にサラミの気分なのに分けてあげるんだから、愛よ愛。感謝なさい。
ESくん
心して頂戴してまーす。うまい!
網口渓太
ハハ! 半分ずつに分けられたピザとおにぎりが乗ったお皿が2枚向か
い合ってる。梅干しは、梅好きのEMちゃんの方に全部渡ったみたいね。
ESくん
愛ですよ愛。ごっこでも家族でありたいじゃないですか。
網口渓太
むしろ粋? じゃあやっぱり、『いきの哲学』の九鬼周造を読んでおかないとね。
ESくん
なるほど、『もう半分』のおじいさんは運命を「諦め」られなかったか
ら、この世の未練から成仏できず、夫婦の赤ちゃんに同化してしまったん
だろうね。なんか、いろいろ考えさせられるな。
EMちゃん
それもまた運命って感じね。
網口渓太
ふたりが食べてるの観てたらすごく腹が減ってきた。デザートもあるしハンバーガー屋いかない?