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時間SF傑作選『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』感想


先日、テッド・チャン著の傑作短編集である『息吹』を読んだのですが、巻末の解説でこちらの短編集が紹介されていました 

ここがウィネトカなら、きみはジュディ

心惹かれるタイトルです
SFって素敵なタイトルの作品がたくさんありますが、こちらも格別ですね
こちらの短編集はいわゆる時間もの、タイムスリップ、タイムトラベル、タイムリープなどの海外の名作が13篇収録されています
SFは好きですが、海外の作品には疎い読み手なので、こちらに収録されている作品は、ほぼ初めて読む作家さんのものばかりでした
しかし難解なところはなく、とても読みやすい時間ものならではのロマンスものもあったり、短くも捻りの効いたショートショートもあったりして、終始楽しく感動しながら読み終えたのでした

ここからは各話それぞれの感想を書いていきます
あまりネタバレに配慮する書き方をしていませんので、閲覧はご注意ください


『商人と錬金術師の門』 テッド・チャン著 大森望◎訳

『息吹』にも収録されていた作品で、そしてあちらでも冒頭に収録されていた作品ですが
このすごい名作がまず冒頭で読めるのって幸せでしかないなあ…としみじみ感動してしまいます
時間ものの傑作ですが、個人的には萌え夫婦が何組も出てくる尊い夫婦愛の話と感じています
テッド・チャン氏の描かれるカップルからしか得られない栄養がある気がします

『限りなき夏』 クリストファー・プリースト著 古沢嘉通◎訳

生きる時間を“凍結”されたことにより、遥か未来で目覚めることになった人々の話
時が解凍された人物は、未だに凍結したままの人を感じる事は出来るが言葉は交わせない、そのために隔たれた恋人同士の話です
訳文の文体が古典の英国文学を思わせる雰囲気があって、ラストも切なすぎました

『彼らの生涯の最愛の時』 イアン・ワトスン&ロベルト・クアリア著 大森望◎訳

タイムリープ(?)にややこしく引き裂かれた恋人たちの話…と思ったら、ここは笑うところなのか…? とハラハラするギャグのお色気シーンがあったり、タイムリープだかスキップだかの現象の理屈が凄い力業だったりする怪作です
マクドナルドみたいなファーストフード店のトイレとベッドでのむにゃむにゃシーンがめっちゃ多くて笑えます
でもちゃんと悲恋の話でもあるので、なんかすごいなと感じました!

『去りにし日々の光』 ボブ・ショウ著 浅倉久志◎訳

破局寸前の夫婦が出かけた旅行先で、過去の風景が写し出される特殊なガラス窓を買い求めようとするが、その小さな店の風景には悲劇が潜んでいた…というお話
夫婦の言い争いのシーンから、このお店の真実にたどり着くのは辛いし悲劇が増しますが
でもこの夫婦は喧嘩を止めないだろうし、悲劇は回避できない、時間の流れは干渉出来ないし不可逆なのだと改めて突きつけてくれる話です

『時の鳥』 ジョージ・アレック・エフィンジャー著 浅倉久志◎訳

卒業旅行にタイムトラベルにでかける大学生のお話!
タイムトラベルが高価だけど身近でもある世界で、胸に熱く期待を抱いてアレクサンドリア図書館に時間旅行をした青年が見た、タイムトラベルの真実とは…というお話
タイムトラベルの管理局がまるきり旅行代理店のようだったので真相には納得したし、青年がすごくロマンス主義なところとか可愛いわねって思いました 

『世界の終わりを見に行ったとき』 ロバート・シルヴァーバーグ著 大森望◎訳

同じくタイムトラベルが旅行として普及しつつある社会での、中流階級のちょっとした見栄の張り合いの話…と思ったら、滅びが迫る世界の話だったので…
これは、我らの世界の話でも全く違和感ないよね…? と慄然とする話ですので、そうですそうです!
こういうのが読みてえんですわ~ってなります

『昨日は月曜日だった』シオドア・スタージョン著 大森望◎訳

SFの中でも、とてもファンタジー寄りの作品でした
わりと堂々と人間よりも高次の存在が出てきて人間に雑な対応をしたりパワハラしたりするので、風刺だ! と思いますし、高次の存在さんがまあまあリアルに仕事が出来ない奴なのも笑えます
役職の高さで人柄の良さは担保されませんよね

『旅人の憩い』 デイヴィッド・I・マッスン著 伊藤典夫◎訳

こんなタイトルですが、過酷な戦争に従事する人の儚い生涯の話です
より戦争の激しい中心地に近づけば近づくほど、時間の流れはゆっくりとなってしまう世界の話で、退役して何十年と一般の社会で過ごしていても、再び従軍することとなったら戦場ではわずかな時間しか経過していなかった…というシーンがあまりにも恐い
穏やかに過ごした長い日々が、一瞬の白昼夢でしか無くなったようで、兵士に戻ると文体も人称も変わってしまうところも恐ろしくて…でも、かっこいい一作です

『いまひとたびの』 H・ビーム・パイパー著 大森望◎訳

50代の瀕死の男性が13歳の頃の自分の身体に戻る、という定番中の定番のお話…ですが、こうした自分自身の年少の頃に戻って未来を変えたり無双したりする話系の元祖は、この作品なのだそうです
ですが、これが元祖!? と驚くほどの完成度と話の畳まれ方の気持ち良さで、13歳になった50代男性の即応力と明晰さが凄くかっこ良かったです
地頭強い人って憧れますので、この作品集の中での一番の推しはこちらになりました!

『12:01 PM』 リチャード・A・ルポフ著 大森望◎訳

ループものなのですが、ループする時間がとても短く、現象の調査もろくにできないし、ループすることを利用して遊んだりも出来ない…という閉塞感があまりにも辛くて、どうにか救いが訪れるか、解決が見出だされるか、して欲しかった、欲しかったのに…
でも、こういう終わり方って、それはそれで好きです

『しばし天の祝福より遠ざかり……』 ソムトウ・スチャリトクル著 伊藤典夫◎訳

凄い変化球の作品でした
なんとループしている人は世界の人類全てで、ループの原因を作り出してるのは宇宙人です!
つまりタイムループ+ファーストコンタクトものなんです
しかし理屈は無茶苦茶なのに、そこで生きて何度も何度もループに足掻いて自暴自棄になったり立ち向かうことを決意したりする人たちの話だから、頑張れ! 頑張れ! ってめちゃくちゃ応援したくなってしまう話でした

『夕方、はやく』 イアン・ワトスン著 大森望◎訳

時間(歴史?)が圧縮され繰り返され、それがついには生命の誕生の起源に遡り、虚空へ消え行く話…だと思います、たぶん
凄く奇想天外で描写も情緒あって楽しいのですが
この情景では今、何が起きているの!? と壮大さのあまりよう分からんくなる話です でも面白いし大好きです


『ここはウィネトカなら、きみはジュディ』F・M・バズビイ著 大森望◎訳 

満を持して、作品集のタイトルの短編でしたが…
その…自分はやや思い込みが激しいのですが
ジュディという名前の女性とのトリッキーなラブストーリーかなあと思ってたら全く違ったんですね
ジュディとの話じゃないの!? とそこに驚いてしまって…
この作中での『ジュディ』という女性の立ち位置が、予想と全然違ったんですね
もちろん話はとても面白いです!
この話における、人の意識が時間を移動する法則と、その中でどう生きていくか模索する恋人ふたりの話なんです
でもその1人は、ジュディじゃないんですよ!
しかし、この内容で『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』としたのって
すごい素敵なんです…悲しいけど

という訳で13篇の感情的なご紹介でした…
やっぱり時間ものSFっていいですね

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