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SF短編集2冊の感想

少し前に読んだ作品の感想を2件、まとめた記事です
どちらもジャンルとしてはSFに相当する作品なのですが、SFってこんな作品もあるんだ、こんな切り口のSFもあったのか、と、意外性を感じ取れる作品集ですので、普段SFというものを読みつけてない方へも、どっぷりSF沼に漬かっている方へもおすすめしてみたい作品となっております


高山羽根子/うどん  キツネつきの

タイトルにきつねが入っているので読んでみた作品です
創元SF文庫というレーベルのこともあり、SFを読むつもりで飲み始めたらかなり面食らう作品でした
日常寄りの怪奇小説という面持ちで、わりとハチャメチャなところもある、ちゃんと説明がされてる話でもなく、結局アレってどういうことだったの? と明かされないままで終わる話ばかりだけど、でも想像の余地はちゃんとあるし、月並みな表現ですが、説明されたら野暮になる、感じとる作品群に思います
高山羽根子さんの作品は初めて読んだのですが、この作家さんの持ち味なのでしょうか
あえてカテライズしてしまうなら、日常系SFかも知れない
諸星大二郎さんや高野文子さんの作風にも通じる、日常の中にしれっと異物が混じり込んで、馴染んで、異世界へと変貌するさまを見せながらも、日常はそれはそれとして進むというような
登場人物も、そうした異物や怪異に対して騒いだり構えたりするタイプではなくて、淡々とやるべきことをする、自分のペースは崩さない独特な図太さ(や鈍さ)がある、それが心地よい作品集でした
短編集なので各話の感想も記載します

『うどん、キツネつきの』
瀕死の子犬のような謎の生物を拾って育てる女の子とその姉妹のお話ですが、その家族や同級生、交際相手との話にも及んで、これは何の話なのか? と訝しく感じるけど、読み込めば大きなひとつのテーマに貫かれている骨太な作品
でも姉妹とその回りの人たちとの会話は、軽やかでリアルでもある その描写は優しくてユーモアもある
結局、うどんは何者だったのかっていうのは些細な話で、このお話が描いてることは、だって放っておけない、何とかしてあげたい、そばにいてあげたい、そんなある意味ありふれた感情の、エゴの話だと感じました

『シキ零レイ零 ミドリ荘』
おんぼろアパートに住む、個性豊かでちょっと困った住人とその大家さんと孫の群像劇のお話
昔の漫画にこういう、アパートものってあったよなあなんて思いました
住人の個性と困った感じが生き生きしており、ちょっと人情ものっぽいエピソードもあって、でも普通に宇宙ネタ(らしきもの)も忍び入っている アニメっぽさのかわいい作品

『母のいる島』
十五人もの娘を出産し、十六人目の娘を生んで満身創痍の母を見舞うために、育った島に久しぶりに集まった娘たちが、その異能を発揮して襲いかかるテロリストを撃退する話
ピンとこないとこもありつつ、勢いが凄いのと、古事記のイザナギとイザナミの問答のエピソードを思わせる箇所があったので、古事記好きは大喜びします
そうだよな、殺すほうじゃなくて産むほうが女の神であってほしいよな、なんて思ったりもしました

『おやすみラジオ』
この短編集の中では、いくぶんかシリアスで怖い、都市伝説やネットミームに繋がる話
好奇心を持って、愛読しているブログの書き手が身近に居るのでは? と調査を初めてしまう語り手に、止めとけ止めとけと思わなくもないのですが、それがどんどん不気味な方向へ向かったかと思ったら、急に切ない幕切れになる癖の強さが良いです

『巨きなものの還る場所』
短編集の最後の作品らしい、堂々とした物語
この世界の色んな場所の色んな逸話、人間が作り出した様々な芸術品、工芸品、巨体な機械、
そこに入り交じるのは、やっぱり人間が古くからの生活の中で産み出して伝承されてきた神話、
『うどん、キツネつきの』でもあったそれぞれの物語の断片がじわじわと収束されていき、そして驚く絵面の大破壊が発生する場面はとんでもない荒唐無稽さがあるけれども、そこにあるのはきっと、再生とか、復活とか、蘇りとか、産まれ出るものの強さで、そう思うとこの短編集の物語はすべてそうしたテーマに沿ったものだったのかも知れない、なんて感じたのです


少女小説とSF



少女漫画や少女小説って、SFというジャンルと隣り合わせの時代があったように、何とはなしに感じていました
自分の読書遍歴においても、SFの入り口が何だったのかと言えば、コバルト文庫の新井素子さんの作品だったことが懐かしいです
そんな、かつて“少女小説”というジャンルの中でSFを紡いでいた作家さんたちのアンソロジーが、この一冊です
収録されている作家さんは、かつて愛読していた方、今でも読んでる方、初めて拝見する方もいらっしゃいましたが、どの作品もとても個性が強く、でも取っつきやすくて読みやすい、色とりどりの様々なSF…かつて“少女小説”のジャンルに浸りきってたものにとっては夢のような作品集でした
また、少女小説のジャンルとSFの歴史や、各出版社毎のレーベルの特色を解説してくれるパートも良かったです
かつてはSF、次第にファンタジーや中華風の世界観の作品が増えてきた流れとか、レーベルによっては男子を主人公に据えた“少女小説”を得意としていたとか、BLを独立したパッケージとして始める出版社もあったりなど、少女小説のジャンルから産まれて派生したブームが様々にあったことの歴史を解説してもらえるので、“少女小説”ってものを、かつて読んでいたけど、だんだん遠巻きに感じる程度になっていた人間には、改めてその変遷を知ることができ、勉強になります
また、この本の序文では“少女小説”というものを、心に“少女”の感性を抱く人へ向けた作品としており、その客層として年齢や性別を定義付けてはいません
だから、かつて少女小説を愛読していた人も、手を出せてなかった人も、これから小説ってもんを読んでみよう思っている人にも、色んな年代の色んな人におすすめしたいです
一番手として収録されている新井素子さんの短編は、幼い頃に自分と居てくれた、かけがえのない存在の枕型のパーソナルAI、モフちゃんを思う女の子のお話でした
つまりはぬいぐるみSFなんです、泣ける
新井素子さんのぬいぐるみをテーマに置いた作品は、モダンホラーやエッセイなどでも絶品でしたが、“少女小説”というジャンルのしかもSFで! その新作が読めるなんて、感慨深いです
少女の一人称小説、そしてその少女が抱いた決意と成長を真っ直ぐに感じる上質な“少女SF”でした

収録されている作品で、他に好きなのは『とりかえばやのかぐや姫』です
かぐや姫は月からの来訪者である、という部分のSF解釈上と“とりかえばや”つまり、男女逆転のかぐや姫、かぐやの尊と少女帝の物語で、少女帝の人物像が素晴らしく惹かれる作品でした 上質な恋愛ものでもあって大満足でした

ところで余談ですが、
この作品集に収録されてる作家さんの中には、かつて自分は苦手と感じていた方もおり、改めて拝読したらやはり同じ理由で苦手だった! と再確認する場面もありました
作品がつまらないのではなく、むしろとても面白いし良いところも分かるんですが、好みではない、というやつです
どの作品がどう苦手だったのかについては、伏せさせて頂きますが、十何年ぶりに読んでも嗜好は変わらないものもあるんだなあ…なんて再確認しました
(作品が気になる方はクリエイターへのお問い合わせフォームからご連絡ください 内緒話させて頂きます)

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