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『盤上の夜』 宮内悠介・著 感想

創元SF文庫『盤上の夜』
著・宮内悠介さん を読みました
囲碁、チェッカー、麻雀、チャトランガ、将棋、そしてまた囲碁…と、盤上遊戯、卓上遊戯をめぐる6つの短編集です
それらの盤上遊戯に挑み、闘い、研鑽を重ねて高みに昇る人々の話…なのですが、各話にそれには留まらない、凄みのある仕掛けとSFとしての奇想が、盤上遊戯という舞台を通じて語られています

盤上遊戯、あるいはカードゲーム等のプレイヤーをモチーフにした作品は、世に数多くあります
自分が読んでいて思い付くのはこちらの4作品ですが

小川洋子さん『猫を抱いて象と泳ぐ』(チェス)
冲方丁さん『マルドゥック・スクランブル』(ブラックジャックとポーカー)
ほったゆみさん『ヒカルの碁』(囲碁)
羽海野チカさん『3月のライオン』(将棋)

こちらの作品に共通することは
ゲームのルールとか難しいところは分からなくても、闘いの凄さや面白さや、ゲームを通じて向き合う相手同士にしか通じ合えない、魂が響き合える瞬間みたいなものを、読んでて感じ取れることだと考えます
この『盤上の夜』もまさにそういう作品で、登場するゲームの極めて高度な話と、それに関連する様々な要素…作品によっては、精神医学、言語学などの話も取り込みながら
なんか今、凄い話を読んでるぞ!
というストレートな興奮が止まらない傑作なのです

以下は短編各話の感想(とおまけ)です


『盤上の夜』

四肢を失った女性が囲碁の打ち手となり天才的な才能を開花させるが、彼女は碁盤そのものを自身の身体のように感じ取り、打ち手を思考する上での恐ろしい高みに臨むようになる…という話
時折垣間見える、官能的な描写が素晴らしいです

『人間の王』

何十年もの長きに渡りチェッカーのチャンピオンであった人がプログラムに敗北してしまった…というエピソードを紐解いてゆくと、そのチャンピオンとプログラムを作ったプログラマーとの関係には、チャンピオンと挑戦者という以外にも深い交流があったと分かる話
話の構造自体にも捻られた仕掛けがあって凄いです

『清められた卓』

不可解な異能を身につけた女性が麻雀で無双的な強さを発揮するが、それに立ち向かう卓の他の3名にも譲れない事情があるのだった…という、ひりつく闘いの話
他の短編と比べて、著者さんの麻雀というゲームそのものへの思い入れが感じられる精密な麻雀描写に、嬉しくなる作品です

『象を飛ばした王子』

将棋やチェスの原型になったチャトランガは、こうした経緯で作られたのでは? という物語が、すごくファンタジックに語られており、また歴史上の大物が顕現するシーンの荘厳さが哀しくもある、随所に散りばめられたエピソードの多彩さにも唸る一作です

『千年の虚空』

ひとりの女性とふたりの男性の壮絶な三角関係…と思いきや、将棋、政治、歴史学の奇想あふれる展開が盛り込まれ、この話は、この三人はどうなるんだ? とまったく想像がつかない
この短編集の中でも(いい意味で)すごくグロテスクな作品でした

『原爆の局』

ふたたび囲碁に立ち返り、『盤上の夜』での登場人物の再登場があり、他の短編のエピソードも反芻され、1945年8月6日の広島に原爆が投下された、まさにその日に行われた対局を巡るストーリーが、戦中当時の回想シーンと共に語られる、重厚で濃密な一編

凄さをひしひしと感じるし、すごく面白いし、夢中になって読みましたが
でもまだまだ、この作品の凄さをきちんと感じ取れているかは不安でたまらない、そんな短編集なのでした


おまけ

実は今回、宮内悠介さんの作品を読んだのは初めてだったのですが
何で読んだかというと『異常論文』というSFアンソロジーに収録されていた
小川哲さんの『SF小説作家の倒し方』で、書かれている宮内悠介さんの倒し方がめちゃくちゃ面白くて、宮内悠介さん気になる…気になる…ってなって、『異常論文』を途中にして『盤上の夜』を読んでしまった次第でした

装丁が美しい

『SF作家の倒し方』では、個人的に大好きな作家さんが最強の作家として紹介されていたところも嬉しかったです
早めにこちらも読んで感想が書きたいところです

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