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モノづくりが見せる景色…

ナゾナゾ


「ナゾナゾだよ〜! 丸くて、三角のものな何んだ〜?」と、娘の彩良が、ナゾナゾの問題を出した。
 小学校に通い始めた頃、妻の亜美の実家に行く道すがら、高速道路のインターチェンジから一般道路に降りてまもなく渋滞している。
 今思えば、道路工事の為の渋滞を過ぎた後にナゾナゾを出したのか…?

 「丸いのに、三角形…、なんだろう?」と真面目な顔をする僕を見て、彩良は「ナゾナゾだからね…!」と笑い出して…、亜美は「おにぎり?」と答えを彩良の表情を伺いながら答え、惜しい様な表情をしていた。
 彩良に僕と亜美はほとんど同時に「答えは何…!」と、彩良は「宿題…!」と言い、ちょうど実家に着いて、実家の義母に出迎えられ、「俊貴さん、遠かったでしょ…」とナゾナゾの答えは聞かずじまいに…。
 あれは、ピンクの桜咲く頃だった。

メーカー

「この度は弊社の製品をご購入いただき有難う御座います。」と俊貴がビジネストークを交わす相手は、自動車メーカーの“中波田自動車"の開発部の石成部長。
 石成さんの肩書のイメージとは程遠く、同じ歳くらいの穏和な同級生といった感じで好感を持った。
 石成さんが「そちらの製品の品質とセンスがとても良くて、むしろお願いします。」とビジネストークは短く終わり、その日以来彼との付き合いが始まり、段々と仕事上だけでは無いものになっていった。
 石成さんは妻と死別していて、丁度私の娘の彩良と同い年の娘の蘭々ちゃんと支えあって暮らしている。 
 家族ぐるみでの付き合いをする中でお互いの娘達はとても気があい、仲が良くてまるでずっと前からの親友の様に思える程で…。

ピラス

「新型 ピラス発売」テレビコマーシャルが風呂上りの僕の目に映り、彩良が「蘭々のお父さんの会社から、新型車出てるよ、かわいいね」と…、僕を振り向き「お父さん、顔色悪いよ」
 彩良がすっかり大きくなり、自動車の話が出来ていた…。
 
 携帯を慌てて手に取り石成さんへ何度もかけてはみたが、話し中でその日は石成さんからの折り返しの連絡はなかった。

 朝になり出社すると設計の籾山が慌てた様子で、待ち構えて話し出した。
「有川さん、新型ピラスの件でお話が…」。

 籾山の話したい事は、僕自身も石成さんに話したい事だなと、想像出来ていた。
「試作品制作後のデータでの性能がまだ少し足りない。安全性にまだ問題が残っていて…」
 技術に疎い僕は「どんな事…? どうなってしまう?」と聞き返すと、
 籾山は「数秒人感センサーが遅れて感知してしまい、物や人を避ける事が出来ない、世に出せませんよ」と俊貴に強い口調で籾山が話した…。
 
 “新型車"のプロジェクトの最終段階で、僕はその通りの事を石成さんに「安全性データに少し問題あるので、もう少し時間下さい」と…。
 石成さんも「そうだね、それはダメだね…、“モノづくり"は丁寧にしないとね」と言っていたけれど…。

 “新型 ピラス"は発売された。

ねじれた組織

このプロジェクトは石成さんのお気に入りの企画で、娘さんの蘭々や僕の彩良の乗る様なイメージをして、ゆっくりと友達や恋人達が話しを愉しみがら安全にドライブを楽しめるキュートな自動車づくり…。
 そんな温もりは外観や内装に感じさせ…、ただ一つ安全性だけが少し欠落したままで、その自動車は世に出てしまい、待ちわびる人達の手に渡ってしまった。
 
 石成は携帯で「有川さん会って話しましょう。 電話では少し話しにくいので…」
 「石成さん、どこでも出来る話しでは無さそうですね。車で迎えに行きますよ」

 石成さんを迎えに行くと、肩を丸めながら風に吹かれていた。
 自動車に乗り、話し始めた石成さんは「最終段階テスト結果を持って行き、まだ未完成ですと上層部に話していたんですけれど、揉み消され発売されてしまった…」と話し、会社への怒りや無念さを超え真っ青な顔で話した。
 石成さんは話しを続けた。
「蘭々や彩良みたいな仲の良い友達同士や恋人達の様な、お互いを大事に思う人達に悲しい思いをさせたり、その自動車で大事な人を奪ってしまうかもしれない」と…。
 
 “新型車ピラス"は石成や僕の気持ちを逆撫でする様に、想像以上の好評で販売予約台数を上回っていた。
 問題すら無ければ新型車プロジェクトを喜んでいたのだろうけれど、哀しみと怒りと混ざり合う…!
 鮮やか自動車の色が何故か色褪せて見えた…。
 

工場勤務

自動車生産工場で働く渡井新太は人員削減が囁かれ始めた時に、息子の隆也の大学進学や故郷の母親の介護施設への入所が重なり、お金の工面をしている最中での人員削減の話しは、“新型車ピラス"のヒットで消え去った。
 生産工場は賑わぎ、工場で働く人達の生活は色付いた…。

 新太は「明日香、いつも苦労かけてるな…」とホットした顔で話すと、明日香は「何が〜」と、とぼけ顔であっけらかんとして、自動車に乗り出勤していった…。
 

友人の娘

「明日香さん、隆也君大学生になったんだね、そりゃ“オバサン"て言われちゃてもしょうがないね、故郷の友達の娘さんが社会人になって久々に会ったら、“おばさん、お久しぶりです”って! 帰りに駅まで赤い“ピラス"って言う可愛い車で送ってくれて、運転する年齢! 私も頑張らないと!!」
 同僚の紫央さんと更衣室での会話は、とても軽快で楽しく過ごす。

 ある日の朝、上司の中泉さんに「紫央さんが今日から3日程お休みですので、宜しくお願いしますね。」
 続けて中泉が「もう一つ、今日から道路工事が近くで始まります。このビルからだと、あの赤い丸で囲んでいる場所ですね。注意して歩いて下さいね…。」
 私はいつも世話になっているから、お見舞いしたいと思い、中泉に「体調悪ければ…」と話すと。
 中泉は、「体調とかではなくて、故郷のお友達の娘さんが“自動車事故”で、亡くなられたそうです。」
 顔すら見た時のない娘さんの鮮烈な赤い顔が目に浮かんで、涙が落ちる。
 ビルの上から見えていた道路工事を囲む赤い“丸"を、仕事終わりにの道すがら横を通ると“三角すい"のコーンが並んでいる。
 
 モノづくりの向こう側に、いろんな色が浮かびあがるけれども…。
 その色は幸せで満ちたりてなければ…、モノづくりじゃない!!
 

 …………………… END ……………………
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

  
 
 
 
 


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