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連載小説『恋愛』 #1

カランコロン

「いらっしゃいませ~」

「いらっしゃいませ~」

僕の名前は松本隆。(まつもとたかし)

小学生の頃からテレビ番組の影響で料理人に憧れ、高校卒業して専門学校に1年通い都内のホテルに就職した。

社会人1年目は相当先輩にしごかれたが、挫折することなく35歳のときには小学生の頃からの夢だった自分の店を持つまでに成長した。

あれから3年。今は妻の由紀子(ゆきこ)と2人でイタリアンレストランを切り盛りしている。

「由紀子!まずは2番さんのサラダからお願い!」

「はい!」

由紀子にも料理の盛り付けや、簡単な仕込みも手伝ってもらいながらなんとかお店を回していた。

そんなある日彼女からバイトを1人雇わないかと提案された。

「ねぇ。隆・・・。バイトを1人雇わない?」

僕はタバコの煙を吐きながらため息まじりに答えた。

「バイトか~」

「たしかに、もう一人いたら負担は減るだろうね」

「うん。それに隆が今よりも料理に専念した方がお店の評判も上がるような気がして・・・」

由紀子は周りに気が使えるとても美しい女性だ。

ついつい僕は料理を作ることに夢中になってしまい視野が狭くなっても、由紀子はお店全体に目を向けてレストランを支えてくれている。

僕にとってはマネージャーのような存在だ。

そんな由紀子からの提案を受けてアルバイトを1人募集することにした。

”アルバイト募集 時給980円 金土日入れる方希望”

さっそく募集看板をお店の扉の横に設置したら、3日後には電話がかかってきた。

プルルル!!

「はい!レストランmatumotoです!」

「あの・・バイトをしたいんですけど・・・」

か弱い女性の声が聞こえてきた。

「アルバイトですね。学生さんですか?」

「はい・・・」

「お名前をお聞きしてよろしいですか?」

「有村えりです・・」

「ありがとうございます。」

「面接をするので可能な曜日を教えてもらいたいのですが。」

「夕方ならいつでも大丈夫です。」

いまにも消えてしまいそうな声だ。

「明日の16時はどうですか?」

「あ、明日はちょっと・・・」

少し腹が立ったが押し殺して再度提案。

「なら明後日の16時はどうですか?」

「あ、大丈夫です。」

「では明後日の水曜日16時にお待ちしております。」

「履歴書をお忘れなく。」

「は、はい。失礼します。」

と言われ先に電話を切られた。

まぁ、学生さんだししょうがないか・・・

と、心の中で思い明後日を待つことにした。

~水曜日~

「おはよう」

「おはよう。今日はあ早いわね。まだ6時よ。」

由紀子はキッチンで自分のコーヒーを作りながら挨拶した。

「朝ごはん準備するからちょっと待ってね」

「ありがとう」

いつも朝は由紀子が焼いてくれたトーストとブラックコーヒーを6時50分に食べるのが日課になっていた。

なのに、今日はなぜか5時に起きてから眠れる気がしなかった。

もしかしたら初めてのバイト面接で少し緊張しているのかもれない。

よっぽどひどくなければ採用するつもりだし、僕がそこまで背負う必要はないと、腹の底に緊張を押し殺した。

「朝食できたわよ」

「ありがとう」

少し焼きの甘いトーストが出てきたが突っ込まないことにした。

「今日は面接だから仕込みのスピード上げないとね」

「そうね。17時に4名様の予約が入ってるからね」

由美子にお店の予約状況は全て任せている。

17時にお客さんが来店するということは、16時30分までに面接を終えないとキツイな、と思いながら少し冷めたコーヒーをすすった。

~~~~~~~

16時までもう少しだな。と思いながらまな板を洗っているとか弱い声が聞こえてきた。

「こんにちわ~」

おっ、きたきたと思いながら入口に目を向けた。

そこに立っていたのは、学校の制服を着た女の子だった。

髪は肩あたりでバッサリ切られていて、背丈はスラッとしているのが遠目から確認できた。

僕は近くへ駆け寄り席へ案内することにした。

「こんにちわ。有村えりさんですか?」

「はい、そうです・・」

「こちらの席へどうぞ。」

「お飲み物持ってきますね。」

「あ、ありがとうございます。」

顔立ちは爽やかで化粧も薄く、若々しい肌はアニメに出てきそうなほど透明感のある白さだ。

厨房に行くと由紀子が気お使ってくれて麦茶を入れてくれた。

「麦茶でよかったかしら?」

「さすが、気が利くね。ありがとう。」

由紀子はなんでもお見通しだな、と思いながら彼女のいる客席に向かった。

「麦茶置いときますね。」

「あ、ありがとうございます。」

彼女の手元に麦茶を置いた際、シャンプーの香りだろうか。そのなんとも言えない香りが脳みそを刺激してきた。

体中の血液が重くなる感覚に襲われた。

僕は落ち着くために麦茶を一口飲み質問した。

「履歴書持ってきてくれました?」

「はい」

学生カバンの中から黄色いキャラクターの書いてあるクリアファイルを取り出し、そこから履歴書が出てきた。

見てみると年齢は17歳。
証明写真の欄にはなぜか友達と撮ったであろう自撮りの写真が自分の部分だけ切り取られて貼られていた。

指摘しようか迷ったがしないことにした。

まだ17歳。僕が若い時もいま思い返せば常識を全く知らずに生きていた。

彼女も社会経験を積む内に多くを学んでいくだろうと思っていたら「ここで指摘しておいた方が良さそうだな」と思ったのでやはり触れることにした。

「有村さん。履歴書に貼る証明写真に自撮りを貼るべきではないですよ。証明写真用の撮影機がスーパーなどに置いてあるのでそこで撮ってくださいね。」

「はい。ちょっとお金がなかったので・・・」

なるほど。立派な理由かもしれない。お金がないからアルバイトをするために履歴書を書いているんだ。

「あ、そうですか。まぁ次からは気おつけてくださいね。」

しかし、お金がないとは言っても親から借りれなかったのかと疑問に思った。すこし親子関係に不安を感じたがスルーすることにした。

一通り話を終えて彼女には採用を伝えた。それから出勤できない曜日を聞いた。

「いきなりだけど何曜日がダメとかある?」

「何曜日でも入れます・・・」

「うちは木曜日が休みだから金曜日から働くことってできる?」

「はい。大丈夫です」

「なら金曜の17時から21時までにしよっか」

「はい」

「エプロンはうちで貸すから汚れてもいいような服装できてね。尚且つ清潔感のある服装で。」

「わかりました。」

「じゃあ、金曜の17時に待ってます。よろしくね。」

「はい、よろしくお願いします。」

真面目な子なのか、面接で緊張しているのかとても丁寧な言葉使いだ。

面接を終え彼女を見送るために後ろを歩いていると、シャンプーの香りがまた脳を刺激した。

心臓が苦しくなり、その数秒後に股間が少し重くなった。

6月ということもあり白いカッターシャツ一枚しか着ておらず、彼女の肌と下着がすこし透けていた。

僕はバレないように深呼吸を2回繰り返し、言葉を絞り出した。

「金曜からよろしくね。遅刻しないように。」

「はい。頑張ります!」

今日1番の大きな声だった。

その夜、僕は由紀子に腰を激しくぶつけながら有村えりのことを考えていた。

続く

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