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短編小説:後悔を取り返す人生

僕は焦っていた。学生時代の友人が今年に入ってから続けざまに結婚したからだ。

20代の頃は結婚なんて自由を奪われるだけさ、と見下していた。インスタに投稿している家族写真なんかを見ると、あぁ、幸せそうに見えるけどストレスは溜まっていくだろうな。子供が生まれると静寂の時間はどうなる。2人目が生まれればそうれはもう皆無だろう。なんて思っていた。

いつからだろう。32歳になった僕はとてつもなく結婚をしたくなっていた。きっかけは分からない。何か大きなターニングポイントがあったわけではない。ただはっきりしていることは20代の頃、僕は結婚を馬鹿にしていた。そして今は心から結婚を渇望していた。

『あの頃のオレは馬鹿だった』なんてセリフをよく聞く。腕に根性焼き(タバコを皮膚に押しるけること)の跡が残っている人なんかがよく言う。『あの頃のオレは馬鹿だったんだよ』と笑いながら。5%ほどの誇らしさを混じえて。

いや、違う。この人たちは誇らしさを混じえている。そして笑っている。

僕は笑えない。誇らしくもない。『あの頃のオレは馬鹿でよぉ、今でも結婚できてねぇんだよ。がははは』なんて人はいないだろう。僕は笑いない状況に直面しているのだ。

そういえば20代の頃も『あの頃のオレは馬鹿でよぉ』と思っていた。

僕は24歳ぐらいの頃から本というものを読み始めた。主に小説や歴史本を好んで読んだ。そして思ったのだ。学生時代から読んでおけば有名な大学に入り、外資系のIT企業に入社してたのではないかと。

あの頃のオレは馬鹿だった。なぜもっと早くから本を読まなかったんだ!僕は学生時代に読めなかった本を取り返すかの如く本を読んだ。まるで本の虫だ。読んで読んで読みまくった。

あぁ、僕は馬鹿だ。本を必死に読んでいる最中、僕は結婚を見下していたのだから。結婚?子育て?そんなものに時間を使ってられるか。本棚にはまだ読んでいない本が10冊以上あるんだ。次元が違うのさ、次元が。

人生って面白いなぁ。過去に執着するあまり、周りと半テンポ遅れてしまうのだから。

40代になったオレは何を思っているのだろうか。何に対して後悔しているのだろうか。結婚したことを悔やんでいれば、それはそれで面白いかもしれない。

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