過度な食事制限はやめてくれ
「もっと食べなよ。見ていて心配だ」僕が言うと、ナナは曖昧に返事をした。
ナナの取り皿を見ると、ブロッコリーが3つとトマトが2つだった。その横に具がわかめと豆腐だけの味噌汁が湯気を上げている。
「せめて昼だけでもお米を食べるべきだよ」
「糖質はさつまいもから摂ることにしているのよ」
「僕に栄養のことはよく分からないけど、無理なダイエットはしないでくれ」
ナナがダイエットを始めたのはK-POPアイドルの音楽を聴きだしてからだ。とはいってもナナの体型はだらしなくない。普通よりもやや痩せているといったところだろうか。
足首はキュッと締まっていて、お尻まわりにはほどよい脂肪がついている。胸は大きすぎず小さすぎずといった具合だ。訊いたことはないがおそらくCからDの間だと思う。
ダイエットをする必要がない!ときっぱり言いたいところだが言ったことは一度もない。彼女の行動を全否定してはいけないことぐらい恋をしていく中で自然と分かってくる。
ただ、そのストイックすぎる、計量を控えているスポーツ選手並みの食事制限を控えてほしかった。
「私もそこまで馬鹿じゃないわ。過度な食事制限は続かないし身体に悪いことくらい分かってる。夜だけよ。腹3分目に抑えているのは」
「朝と昼はしっかり食べているのかい?」
「えぇ、フルーツに野菜、タンパク質は魚から摂っているは」
「それならいいんだけど」
「裕太くんこそ朝は何も食べずに仕事に向かって、昼はコンビニだなんて。私よりよっぽど不健康だわ」ナナはお茶を飲みながら僕の目をジッと見つめた。
「たしかにそうだ。すまない・・」そう謝ってからご飯を控えめに口に運んだ。
「明日は土曜日だから僕が何か健康的な料理でも作ろうか?」雰囲気が悪くなると僕が料理を作る。それがこのカップルの暗黙のルールだった。
「やった!何作ってくれるの?」
「肉はNGなんだよね」
「そうね。できたら魚がいいわ」
「じゃあ・・・・、サバとじゃがいものスパゲティ」
「サバのパスタ・・。美味しいの?」ナナはそう言って首を傾げた。
「サバとじゃがいもって相性が良いんだよ」僕は5年ほど前に料理人としてレストランで働いていた。その時まかないで作ったのがこのパスタで意外と評判が良かった。
「へぇ、合わなさそうに感じるけどな~」
「じゃがいもはなんでも合うのさ」
「サバ以外になんかあるの?」
「えっと~、タコとか」ナナの顔は無言で「他は?」と訴えているようだった。
「じゃがいも料理で検索してみてくれ。たくさんのレシピが出てくるはずだよ」
ナナはスマホを手に取り素早く親指を動かした。「肉じゃが・・・、フライドポテト・・・。なんかありきたりだな」
「じゃがいもには個性がないんだよ。他の食材の邪魔をするような」
「だから他の食材とも合うってわけ?」
「うん、僕はそう思う。フランス人はじゃがいもをたくさん食べることで有名だよ」
「意外だわ。パンばかりかじってそうなのに」
そういえば僕は高校生のころ、学校の近くのスーパーでじゃがいもとベーコンの挟んであるフランスパンが大好きだった。
「ふふ、フランスパンとじゃがいももよく合うのさ」
「明日が楽しみだわ」ナナは顔に微笑を浮かべた。
「じゃあ、明日はサバとじゃがいものスパゲティとフランスパンでいいかな?」僕が訊くとナナは首を振った。
「炭水化物の取りすぎだわ。パスタだけで十分よ」
「わかったよ」そう言って僕たちはテーブルの上に置いてある食器を片付け始めた。