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小説:剣・弓・本009「静かの森1」

【ライ】

 さてと、僕の作戦通りセドさんが前衛、ナスノさんと僕は後衛。この陣形が奏功したと言えます。
 途中マダラオオカミザルとリクサメネズミ、そしてクジラミミズの群れに遭遇しましたが、流石はセドさんです。全く問題にせず瞬殺でした。やはり彼は強い。強すぎます。頼もしいなあ。
(それにセドさんを振り向かせなかったのもよかった)

 事前調査によると、この地帯では精神系モンスターの出現は確認されておらず、その時点で攻略は容易だと推測していました。まあ、精神系が仮にいたとしても策は講じていましたがね。

 しばらく進むと木々が無くなり、円形に少し開けたところに出ました。

「いいかげんにしろ! こっちは気づいてんだ!」
 ふいにセドさんが怒鳴ります。
「ど、どうしたんですか?」と僕は訊ねます。
「おいおい、学術士さん。あんたなら何でもお見通しじゃねえのかい」
「……すみません。現場経験戦場はまだまだでして」
「言い訳か。お前なあ、言い訳して生き残れんのか?」
 セドさんが冷たくも温かい言葉を言い放ちます。本当にその通りです。僕は黙ってしまいました。

尾行けられてるんだ。ここに入ったときから。いや、俺に対しては昨日の夜からだな」
「えっ? そうなんですか? ナスノさんは?」
「ああ、分かっていましたよ。しかしわざわざ言うほどのことではないでしょう」
 やっぱ凄いなこの二人。目視していない敵の戦力を洞察する力。
「出てきやがれ!」とセドさんは言い放ち、剣の先を追手がいると思しき所に向けます。

 その茂みからゆっくりと姿を現したのは一人の少女でした。そう、僕とだいたい同じか少し年下の女の子です。黒髪を肩の辺りまで伸ばしていて、腰には剣を携えています。両手を上げて敵意が無いことを示していますが、目をカッと見開いていて、何かについての覚悟を持っているような印象を受けます。
「やっぱり子供だ。
 おい! 何か言ったらどうなんだ! 目的は? 要求は?」
 セドさんのその問いに少女は答えませんでした。
 すると腰の小さな鞄から小さな紙を取り出し何かを書き付け、僕たちに渡そうとします。
 僕が慎重に受け取り確認します。
「これは、ヴュート文字ですね」
「なんだそりゃ。訊いたことがねえな」とセドさん。
「ヴュートってあの少数民族の?」とナスノさんは気づきます。

「ちょっと待ってくださいね」
 僕は膨らんだ鞄の奥に手を突っ込んで、小さな辞典を取り出しました。『ヴュート語辞典』を開いてその紙を読み解きます。

「はいはい。分かりました。
 ほほう。そうですか」
 もっとセドさんの話を、生い立ちを聞きたくなってきたなあ。

(つづく)


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