小説:狐023「リスティーさん02」(908文字)
「ハイ。いいですか? まずですね、人はランダムな行動の総体なんです。
“自分のことは自分が1番分かっていて、自分を自分がきっちり制御している”
多くの人はこのように思っていますが、それは誤りです。
この得体の知れない“自分”の中を分析していきましょう。するとどうでしょう?
ハイ。カオスです。カオスなんですよね」
ここでリスティーさんはライムサワーを飲む。なぜかライムサワーである。アルコールを知り始めた大学生が飲みがちなものとしてのライムサワー。あるいは、とりあえず、お酒をそんなに好むわけではないけれどお酒の席だからアルコールを注文しておこうかというパターンのライムサワー。
「そこで、リスト化が力を発揮します。
あなたの本当の願望、夢、希望、ありたい状態、成したいこと……
そういうものを一つ一つリストしていきます。
ハイ。そうですね。カオスの可視化ですね。ハイ。そこからの再構築をですね……」
エロウさんがすかさず、半畳を入れる。
「あ、アタシはカオスのままでいいや。もちろんそういうのやったことあるよ。そういうの好きな人がいるのも知ってる。役立ちそうなのもよく分かる。リスティーさんの本も売れてるから、きっと多くの人に響いているんだとも思う。
でも、アタシのやり方じゃあないな。アタシはその得体の知れない自分とやっていくのがいいかなってね」
いつものエロウさんのスタンスである。心地よいと思う。言うことは言う。主張を明確にする。私はそれが苦手だ。対立や軋轢を恐れてしまう。
「今は、同人誌とあと、たまに商業誌でも書いてるけどね。
……これでも、夢あったよなぁ……」
「夢って何だ?」と尋ねたのはスミさんだった。
「恥ずかしいけど、“週刊少年シャンプー”に連載持ちたいよね。一漫画家としてはね」
「恥ずかしいなんて言うなよ! 素晴らしいじゃねぇかよ! 狙え、狙えよ! エロウさんならいけるだろ。あれだ、あれ、“メロン1000%”みたいなので載れよ!」
スミさんが急に大きな声を出したので、みんな目を丸くする。リスト化メソッドよりもむしろ、酔いどれたスミさんの檄のほうが私の心には響いていた。
さて、私の夢は何だったろうか。
いつもどうもありがとうございます。