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小説:狐022「リスティーさん01」(857文字)

「リスティー先生、こんばんは!」
 そう切り出したのはアーマーさんだった。
「ハイ。こんばんは、アーマー先生。ハイ」
 とリスティーさんがにこやかに応じる。
 先生? アーマーさんも先生なのか? 互いが互いを先生と呼んでいる?
「ハイ、皆さん。最近痩せたと思いませんか? ええ、アーマー先生にいわゆるパーソナルトレーニングを施してもらってます」
 と笑みを浮かべるリスティーさん。ハイ、という口癖が今日も気になる。聞いている側としては無くてもいいものだが、話者としては必要なバッファーなのだろう。会話上のルーティンであり、間やタイミングを取っているのかもしれない。
「俺は、経営のこととか物事をチミツに整理したりするのが得意じゃないから、リスティー先生にコンサルをお願いしているんだ」
 と頭の後ろをかきながらアーマーさん。

 なるほど。リスティーさんはダイエットのために、そしてアーマーさんはパーソナルトレーナーとしてのビジネス支援のために、互いが互いを必要としているようだ。

「ハイ、ところでナリさん。リスト作ってる?」
 ひと席空けてカウンターに腰掛け、つきたてのお餅のようなお腹をさすりつつ、私に声をかける。
 仕事上のタスクリストくらいなら、というようなことを伝える。
「ハイ、いいねいいね。もっともっとリスト化しましょうね。ナリさんの人生を、願いを、夢をリスト化して、コントロールしてあげてくださいね。ハイ」
 いつもの調子だ。両手を自分の耳の辺りから外へ何度も広げる。テレビのコメンテーターとしても最近は活躍しているリスティーさん。

 リスティーさんはいつからリスティーさんなのだろうか、という素朴かつプリミティブな疑問が湧いてくる。彼は続ける。
「ハイ、今度ね『今すぐリスト化しなさい』の続編、『とにかくリスト化しなさい』を書くことになりましたよ。ハイ」
 と機嫌よく喋り出す。
 ずっと黙っていたエロウさんが口を開く。
「先生、ご無沙汰してます」
 レッドアイをゴクリと飲んでから続ける。
「リスト化するとどんないいことがあるんですか?」

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