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マッチングアプリにはなかったはずの出会い

数年前のわたしは、本当にもう、色々あって、一番認知度が高いマッチングアプリをインストールしていた。
出会いを求めていたんじゃなくて寂しかったんだと思う。実際に会うより、文字で、血の通うコミュニケーションができる人を求めていたんだと思う。

今はどうかわからないけれど、当時のそのマッチングアプリは、肌色の多いプロフィール写真、ヤリモク宣言、既婚、彼女持ちなど、治安は極めて悪かった。
その中で恋愛をせずに普通の会話ができる人を探していた自分の方がマイノリティだというのは気付いてはいたのだけれど。
なにを求めていたかと言われると文通相手のような存在だった。あんな魑魅魍魎な世界で文通相手。ちょっと当時のわたしの判断能力はあまりよくなかったんだと思う。精神的にも過去イチと言っても過言でないほどよくない状態だった。

Kさんとの出会い


そんな中、Kさんという方とマッチングした。わたしはしっかりと律儀なので「現在恋人やセフレを探しているわけではなく、自分の見聞を広めたり、認知の歪みを整える目的でやっているので、わたしとやりとりをしてもそちらにはなんのメリットもない可能性がある」ということをはじめの段階でしっかりと伝えていた。それでブロックならそれでよい。ただそれだけの話だった。
が、Kさんはブロックをせず、自分もそういう感じだと言っていた。そんなことあるか?と思ったが、本人がいいなら、まあよいかと、そう思うことにした。

コロナ禍真っ只中だった。Kさんは東北の出身で伝統のお祭りが中止になることを残念がっていたし、大まかに分類すると医療従事者だったわたしは、ただ日々恐ろしいという話をした。
恋愛観についての話もしたし、趣味の話もした。
コロナ禍の人に迷惑をかけない趣味としてお香をすすめてくれ、今でも続けている。
こういう人をどう思うか、自分は許せない、自分は意外となんとも、とそういう細かい価値観の話もできた。自己肯定感が地の底を這っていたわたしを励ましてくれたこともあった。こんな人いるんだなと思った。
Kさんはどこかで恋愛を期待してアプリを入れたに違いないのに、やりとりは3ヶ月を超え、ほぼ毎日やりとりをし、特に土日の夜はチャットのように会話をしたと思う。楽しかった。
男友達という存在に恵まれなかった私にとって、初めてとも思える特別な存在だった。

突然の別れ


それは、本当に突然だったんだけれど、Kさんから「ぼくは今日でアプリをやめます!」と連絡が来た。「どうしたんだろう」と思い、理由を聞くと、わたしというメル友?文通相手?ができてしまい、すぐやめようと思っていたのに続けてしまった。でも区切りをつけたくなったのだと言った。
あ~わかる、すごくわかるよ。リセットしたくなるときってあるよね、とわたしは言った。
最後はお互いの健康と幸せを祈ってさよならを言って別れた。直後にわたしもアプリをアンインストールした。

ただ、世間話ができる人のありがたみってすごかったんだなー、と少し喪失感はあったけど、わたしはこの出会いも別れもよいものだったなと思った。
お香に火をつけた。お寺の匂いが好きだと言っていたから真似して買った白壇だった。

Kさんへ

あれから3.4年経ちましたね。
お元気にされてますか。わたしはあのあと色んなことがあり少し前に結婚をしました。
Kさんと出会ったアプリより少し真面目なマッチングアプリで出会った旦那さんは、お香が趣味だと言ったらそこで興味を持ってくれて会うことになり、お付き合いにいたりました。
色んな話を聞いてくれてありがとうございました。たしか、わたしより一つ年下だったKさん。
今日も川沿いの街でお仕事に励まれてますでしょうか?同じB型だったKさん、いけすかない同僚のおばさんとはどうにかやれてますでしょうか?
わたしは、なんとかやっています。あなたがあのとき丁寧にくれた言葉すべてを覚えてはいないけど、あなたがいないとやりきれない日々もあのときはたくさんあったと思う。いてくれてありがとう。
猛暑の空を見上げてたまにあなたのことを思い出していたから文章にできてよかった。

わたしのことはもちろん覚えていなくていいから、どうか今日も元気でいてくれたらと思う。
もう会うことはないと思うけど、出会えたらきっとおともだちになってね。

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