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吉川英梨【エッセイ】新刊『感染捜査 黄血島決戦』に寄せて


沈没船を引き揚げる

吉川英梨

 私は現在、海上保安庁の外郭団体「海上保安友の会」の理事をしています。各種式典、祝賀会などに出席すると、海上保安庁とやり取りのある多種多様な人と名刺交換をします。報道、教育、医療関係から造船、海運……。

 みなさん、小説家の私を珍しがり親切に接してくださいますが、中でも後日メールをくださって「なにかあればいつでも取材協力します」と言って下さった方がいました。日本サルヴェージ株式会社の大谷おおたに弘之社長です。

 沈没した船を引き揚げたり、転覆・横転した船を曳航えいこうしたりすることをサルベージと言います。日本サルヴェージは国内屈指の技術を持った海難救助企業です。

 拙著『感染捜査』の一作目では大量発生したゾンビを始末するため、主人公二人が豪華客船を爆破沈没させました。物語にピリオドを打った瞬間、私は大谷社長のことを思い出しました。

 ―このゾンビ船、引き揚げたい。

 二作目を執筆するにあたり、すぐさま大谷社長に連絡をしました。担当編集者を伴って日本サルヴェージ本社を訪ねたのは四月中旬のことでした。知床しれとこで遊覧船が沈没したのはその一週間後。作中に出てくる飽和潜水などの特殊潜水技術や、沈没船を引き揚げる具体的な技術などが連日報道される中での執筆となりました。夏ごろに門司もじ支店に伺い、技術者の方々と話しました。現場の想いと高い技術力を見聞きし、胸を打たれ、感嘆しました。そのたびに思ったのが、(ゾンビの話で申し訳ない……)。

 今回はゾンビとの戦いを舞台にした親子の物語でもあります。天真爛漫な主人公、天城あまぎ由羽ゆうが生き別れていた父とゾンビ船引き揚げ現場で再会します。一作目、最前線でゾンビと戦った海上保安官で、女性読者をとりこにした(!?)来栖くるすひかるも出てきますが、今回は由羽が主人公として大きく羽ばたいた一冊になりました。感涙必至の物語、是非お読みください。

《小説宝石 2022年12月号掲載》


▽『感染捜査 黄血島決戦』あらすじ

ゾンビウイルスの感染者を乗せ、黄血島近海に沈められた豪華客船クイーン・マム号。QM号引き揚げの極秘プロジェクトが開始され、警視庁の天城由羽は、海上保安官の来栖光と黄血島へ向かう。島で出会った潜水士は、長年交流のない由羽の父親だった―。

▽プロフィール

吉川英梨 よしかわ・えり
1977年、埼玉県生まれ。2008年『私の結婚に関する予言38』でデビュー。著書に「新東京水上警察」、「警部補・原麻希」「警視庁53教場」「十三階」「海蝶」「感染捜査」シリーズ、『海の教場』等。


▽『小説宝石』新刊エッセイとは


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