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『どうしようもなくさみしい夜に』千加野あい&『ルポ 国際ロマンス詐欺』水谷竹秀|Book Guide〈評・東えりか〉

文=東えりか


『どうしようもなくさみしい夜に』千加野あい

居場所を必死に探す人たちを繊細に描く傑作

「職業に貴賤はない」というお題目が嘘だということは誰でも知っている。性をお金に換えることは卑しいけど生きのびるための事態ならば私も、と思う女性は多いかもしれない。いやそれだけじゃない。どうしようもなくさみしい夜に、あなたは何をするだろう。

 本書は五篇の短篇で構成されている。

「今はまだ言えない」の夏希は高校入学直前の男子だ。風俗嬢の母は相澤隆という人との結婚を考えていると告白する。小学校で母の仕事をバラされても生活の手段と夏希は割り切っているつもりだった。だが結婚で、母が幸せになるってことが割り切れない。

「雪解け」の結衣がデリヘルの風俗嬢になったのは、たった七万の旅行代金が欲しかったから。結局ずるずると続けているその店の店長の名は相澤夏希。

「落ちないボール」の翔の恋人、風香がある日「自分はデリヘル嬢だ」と告白する。翔に小学校のときに夏希の母が風俗嬢だとみんなに触れ回った記憶が蘇る。

「ひかり」は風香の娘の名。翔に懐いていたけれど、関係は壊れ、客にストーカーされてしまう。ツイッターで助けを求めると手を差し伸べたのは翔のリツイートを見た夏希だった。

「折り鶴を開くとき」はまた夏希の物語に戻る。デリヘルの店長になった夏希はかつての人気デリヘル嬢のリコに呼び出される。いまは人気YouTuberのリコが風俗に身を置く者のプライドとコンプレックスを、夏希との夜のドライブでの会話で探る。お金の問題じゃない性の仕事ってなんのために存在しているのか。

 陰の場所で行われる秘め事で、自分は誰かを救っているのかを自問自答する。自分の居場所を必死に探す人たちを繊細に描いた傑作だ。


■ ■ ■

『ルポ 国際ロマンス詐欺』水谷竹秀

被害者と詐欺犯の双方に迫るルポ!

「恋は盲目」とはよく言ったもの。愛を餌に金をだまし取るという恋愛詐欺はいつの時代でもどこの国でもあったことだろうが、昨今急増しているSNSを使い外国から仕掛ける詐欺はスケールが違っている。

 手口はいたって簡単。SNSやマッチングアプリを使って恋愛感情を抱かせ金銭をだまし取る。被害額は数千万円から億単位。著者は被害者から詳細に取材し、一方で自分に仕掛けられた詐欺を利用して加害者が多いというナイジェリアに飛んだ。世界を股にかけた犯罪をノンフィクション作家が体を張って取材した一冊だ。

《小説宝石 2023年9月号 掲載》


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