【新刊エッセイ】大倉崇裕|一日署長は一日にしてならず
一日署長は一日にしてならず
大倉崇裕
タイトルを決めるのがとにかく苦手だ。書き終わるまでまったく思いつかない時もあるし、編集者さんを拝み倒して決めてもらったこともある。
『一日署長』は珍しく、まずタイトルが先にあった。しかし、タイトルを思いつくと中身を思いつかない。その後、同タイトルの小説やテレビドラマもあったりして、長らくほったらかしになっていた。
ある時、海外ドラマの情報サイトで「タイムマシーンにお願い」がリブートされるニュースを見た。「タイムマシーンにお願い」は一九八九年から五シーズンに亘って放送されたドラマで、ある装置によって過去へと飛ばされた天才物理学者の意識が、様々な人の意識と入れ替わり、過去をより良い方向へと変えていく物語だ。
現代人が過去の署長に憑依し、未解決の事件を一日以内に解決するため奔走する―「一日署長」じゃないか!
ふと思いついたタイトルが名作ドラマにインスパイアされて、奇妙な連作短編集が突然変異的に誕生した。
各話のラストは、クリント・イーストウッドの実話映画化作品などで、登場人物たちのその後をエンドロールにのせて簡潔に語る手法に倣った。何ともいえない余韻と切なさを演出したかったのだが、上手くいったかどうかは判らない。
重要な役割を果たすパソコン「ポルタ」は、実際にかみさんが使っていたものだ。
真夜中、何もしていないのに青白い光を発しながら突然立ち上がり、私は何度も、肝を冷やした。昨年の引っ越しを機に処分してしまったが、やはりあのパソコンは何かがおかしかったと思う。
この作品は、私の好きな物、身近にあった物を集めて形にした。そのせいか、書いていて実に楽しかった。
《小説宝石 2023年7月号 掲載》
『一日署長』あらすじ
新人警察官の五十嵐いずみに課せられた仕事はなぜか資料整理だった。ある日、パソコンの画面が発する光に包まれたいずみは、自分が1985年の署長室にいて、署長の身体に憑依していることに気づく。彼女は思いがけず、〝一日署長〟として、事件に挑む!
著者プロフィール
大倉崇裕 おおくら・たかひろ
1968年京都府生まれ。97年「三人目の幽霊」で創元推理短編賞佳作を受賞。98年「ツール&ストール」で小説推理新人賞を受賞。アニメなどの脚本も担当。近著に『殲滅特区の静寂 警察庁怪獣捜査官』他。
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