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『地雷グリコ』青崎有吾&『苺飴には毒がある』砂村かいり|Book Guide〈評・瀧井朝世〉

文=瀧井朝世


『地雷グリコ』青崎有吾

女子高校生が挑む頭脳バトル

  誰もが知っているゲームに新ルールをいくつか加えるだけで、こんなにスリリングな頭脳戦&心理戦を堪能できるとは。ロジックの面白さをたっぷり味わえるのが、青崎有吾の連作集『地雷グリコ』だ。

 西東京にある頬白高校。文化祭の場所取りをめぐって、生徒会と勝負するために引っ張り出された射守矢真兎。ぶかぶかのカーディガンを着てヘラヘラしている彼女だが、実は勝負事にはめっぽう強い。その日審判役が提案したのは、なんと、誰もが知っている、階段で遊ぶあのグリコ。ただしそれぞれ三個ずつ、相手には教えずに好きな段に地雷を仕掛けてよいという。「グリコ」「パイナツプル」「チヨコレイト」の文字数からして、三の倍数に仕掛けるのが当然だろうと思われたのだが……。この出来事をきっかけに、真兎は学校周辺のさまざまな勝負事に挑んでいくこととなる。百人一首の札を使った神経衰弱、変則的な「じゃんけん」や「だるまさんがころんだ」、ポーカー……。誰もが真似して実践できそうな遊びばかりだ。

 ヘラヘラしながらも、相手の性格やその場の状況を瞬時に判断し、絶対的に不利な状況を覆していく真兎のゲーム運びがなんとも痛快だ。彼女は勝負前に必ず審判にいくつかルール等の確認をするのだが、実は重要な意味があったと気づいて何度も膝を打つ。

 いつも真兎を応援するのは中学時代からの友人、鉱田ちゃんで、二人の信頼関係と友情も心くすぐるものがある。グリコの勝負で対戦相手だった椚先輩や、豪快な佐分利生徒会長、真兎と鉱田ちゃんの中学時代の同級生だった図抜けた頭脳を持つ雨季田などキャラクターも魅力的。続編を望む声もちらほら耳にするが、もっともっと読みたくなること必至の面白さだ。

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『苺飴には毒がある』砂村かいり

〝毒友〟との微妙な時間とその変化

 一緒にいると傷つくこともあるけれど、どうしても嫌いになりきれない相手とどう付き合っていけばよいか。そんな思春期の友達関係の悩みが繊細に描かれた長篇。

 高校生の寿美子には、れいちゃんという幼馴染みがいる。噂話が好きで、人を見下した言動を繰り返す彼女だが、一緒にいて楽しい時間だってある。れいちゃんが他の仲間と自分の悪口を言っていると薄々気づいているものの、気づかないふりをしてきたが……。

 そんな〝毒友〟に対する悩みを中心に、部活や家族など高校三年生の日常が丁寧に描かれて読ませる。

《小説宝石 2024年1月号 掲載》


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