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【新刊エッセイ】麻加 朋|川の字で眠った夜に

川の字で眠った夜に

麻加 朋

 新人賞受賞後第一作となる『ブラックバースデイ』がこの度、刊行された。

 子どもだった自分と母親となった自分を行き来しながら、親子というものに想いを馳せて執筆していた。そんな日々を過ごす中、あるメロディーが頭に流れてきた。

「ねんねんころりよ おころりよ 坊やはよいこだ ねんねしな」

 今でも歌われているのかわからないが、私はこの子守歌が苦手だ。苦手というか、弱いと言った方が当たっている。

 私は出産後、夫の出張の度に、子連れで実家に泊まりにいった。ある夜、母がこの子守歌で私の子どもを寝かしつけていた。母と私と幼い子どもの三人が横たわる静かな空間に、寂しげな調べだけが響く。すると、私の目からみるみる涙が溢れてきた。かつて歌ってもらった頃の記憶が蘇ったのだろうか。本当の理由は今もわからない。とにかく泣けて泣けて仕方なかった。親になった自分が母の子守歌に泣くなんて、恥ずかしいのでさりげなく背を向けた。それ以来この歌を聴くと感情が揺さぶられ、自分でも歌えなくなった。「親子」と聞いて私が連想するのは、今でも「ねんねんころりよ」の子守歌だ。「親子」という関係は、どこか切なくもの悲しい。

 本作『ブラックバースデイ』は、鎌倉と瀬戸内海の離島を舞台に、誕生日を発端とした秘密が絡み合い、激しく揺れ動く家族の物語だ。将棋カフェを営む父と二人で暮らす主人公、駒之介こまのすけ。突如、隣に謎めいた二組の親子が越してきた。

 人目を避けるような様子がいかにも怪しくて興味本位に探っていくが……。交錯するそれぞれの想いに翻弄されながらも、駒之介は真相を追い続ける。

 ミステリーとしての謎解きと、哀しみや憤り、ハラハラドキドキ感など、様々な感情を皆様にお届けできる小説になっていれば、と願っている。

《小説宝石 2023年7月号 掲載》


『ブラックバースデイ』あらすじ

鎌倉の民宿にある家族が長逗留している。息を潜めるように暮らしているが、実はテレビでも特集された有名人たちらしい。新生児の頃に子供を取り違えられた二組の家族が支え合い、その共同生活が注目されたのだ。それが、なぜここに? そして訪れる悲劇とは!?

著者プロフィール

麻加 朋 あさか・とも
1962年東京都生まれ。2022年『青い雪』で第25回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞しデビュー。本作が受賞後第1作となる。


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