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佐々木功【エッセイ】新刊『たらしの城』に寄せて

1月25日、佐々木功さんの新刊『たらしの城』が発売されました。刊行に合わせて寄稿いただいた著者エッセイを紹介します。


秀吉、たらして城づくり!?

佐々木功

 変な奴を書くのは痛快だなあ、と、光文社さんでの前作『天下一てんかいちのへりくつもの』にて思ってしまったのです。いや、中毒になったのかもしれません。

 だから、あれを上回る変な奴のことが書けないか、どこかにいないかな、変人(笑)、と探して、前作で主人公と対決した秀吉ひでよしが思い浮かびました。あいつこそ、戦国史上最高の奇人変人でしょう。でも、最近の秀吉といえば、「ズルおとこ」「ワル」と描かれるばかり。せちがらい世の中です。奴の「いいところ」を満載した話があってもいいじゃあないですか。

 よし、では、ネタはどうしましょう。やっぱり若き秀吉といえば、墨俣一夜城すのまたいちやじょう。まあ、いろいろ伝説めいた城だけど、あれには、秀吉の輝きが詰まっているよなあ……。

〈秀吉が一夜城を築いたという話には、それが史実であることをうかがわせる史料的な裏付けがない。今後、そうした史料が見出みいだせぬ限り、秀吉が築いたという墨俣一夜城は、実在しなかったと判断せざるを得ない〉Wikipedia【墨俣城】より

 こんな風に書かれていると知って、悲しくなりました。思えば、墨俣城をググったのは初めてかもしれません。若い方がネット検索で知るなら―胸がしめつけられますね。

 では、私のような少年期に『太閤記たいこうき』を読んで心おどらせた歴史ファン、歴史小説ファンは、いったい、どうすればいいのでしょう。そして、我々日本人のほとんどが知り、皆がだいたいこんな感じ……と思っている「豊臣とよとみ秀吉」の輝かしき栄光たんはどうなるのでしょうか。

「史料がないから」「書かれている史料が胡散臭うさんくさいから」、それで、終わらせていいのでしょうか。いや、わたしは「小説家」のはしくれ、いいはずがない!

 ……そんなことで物語ができました。

 みなさん、これを機に、いま一度、墨俣一夜城について語り合ってみるのはいかがでしょうか?

《小説宝石 2023年3月号掲載》


▽『たらしの城』あらすじ

織田信長の美濃攻めが始まる。斎藤龍興領の要衝、墨俣に一夜にして城をつくり、敵はおろか信長の度肝を抜いた藤吉郎の奇想天外な策略の数々とは? いつもその傍には兄を支える弟、小一郎がいた。次々に加わる仲間と藤吉郎一家が、力を合わせて生き抜いてゆく!

▽プロフィール

佐々木功 ささき・こう
大分県出身。『乱世をゆけ 織田の徒花、滝川一益』で、角川春樹小説賞を受賞しデビュー。主な著書に『天下一のへりくつ者』『真田の兵ども』などがある。


▽『小説宝石』新刊エッセイとは


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