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『卒業生には向かない真実』ホリー・ジャクソン&『蒼天の鳥』三上幸四郎|Book Guide〈評・西上心太〉

文=西上心太


『卒業生には向かない真実』ホリー・ジャクソン

女子高生ピップ、最後の謎解きに驚愕!

 各誌ベストテンで上位を占めた『自由研究には向かない殺人』、『優等生は探偵に向かない』に続く本書は、三部作の掉尾を飾る作品である。

 女子高校生のピップは、少女の行方不明事件を夏休みの自由研究のテーマに取りあげた。その結果、死者の汚名をそそぎ、ある真相にたどりつく。だがそれは平穏な町に大きな波紋を生じさせる結果につながった。彼女の調査は住民たちの秘密を暴くことにもつながり、思わぬ恨みを買ってしまったのだ。

 利発で好奇心が旺盛なことには変わりはないが、ピップは無垢な少女のままでいることが不可能になった。二つの事件の真実を探り当てた代償として、人の裏の顔を知り、悪意や暴力に晒されたからだ。本書では、直近の事件で受けた心の傷により不眠に悩み、非合法な薬に頼る痛々しい少女として登場する。しかもSNSのピップの書き込みをめぐり、ある男性から名誉毀損の訴えも起こされている。さらに不気味な絵が私道にチョークで描かれたり、頭のない鳩の死骸が敷地内に置かれるなど、ストーカーの仕業と思われる行為もあった。六年前に起きた連続女性殺人事件でも、同じようなことが起きていた。それを知ったピップは、刑務所にいる犯人は冤罪ではないかと思い始める。

 前半でピップに最大の危機が訪れるのだが、その場面での彼女の行動には驚かされる。ピップはここまで追いつめられていたのかと、同情せざるを得ないのだ。後半は彼女の揺れ動く心理と、その行動がもたらした状況がスリリングに描かれ飽きさせない。

 前二作の顛末がオープンに書かれているので、順番に読む必要がある。三作品とも大部だが、他にない読書体験が得られる、傑作ぞろいのシリーズだ。


■ ■ ■

『蒼天の鳥』三上幸四郎

親子探偵と凶賊ジゴマの対決

 田中古代子と娘の千鳥は念願だった「探偵奇譚ジゴマ」を観る機会を得た。だが映画上映中に火災が起き、燃え広がる舞台から突如ジゴマが現われた。ジゴマは観客の一人を刺し殺し、親子にも向かってきた。二人はなんとか逃げ延びたが、はたしてあれは現実だったのか。

 実在の女流小説家親子が主人公で、尾崎翠も登場する。大正末期の鳥取を舞台に、怪盗ジゴマがもたらす幻影と、アナキストの暗躍という現実がからみ合う、第69回江戸川乱歩賞受賞作だ。優れた洞察力を持つ最年少探偵? の千鳥が印象的。夭折する彼女の運命が悲しい。

《小説宝石 2023年9月号 掲載》


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