【新刊エッセイ】染井為人|魑魅魍魎が跋扈する芸能界
魑魅魍魎が跋扈する芸能界
染井為人
芸能界にわたしが足を踏み入れたのは今から十八年前、二十二歳のときです。それから約十三年間、タレントマネージャー、イベンター、演劇・ミュージカルのプロデューサーなど、様々な仕事をしてまいりました。
学生時代はずっと運動部で、芸事とはまるで縁がなかったものですから、最初は大いに戸惑いました。初めに携わった現場がゆるいコメディドラマだったこともあるのでしょうが、大の大人がおふざけをしているとでもいいますか、わたしの目にはどうしても遊んでいるようにしか映らなかったのです。こんなことでお金がもらえるのか、ということにまず衝撃を受けました。
その一方、恐ろしい目に遭うことも(詳細は伏せますが)ありました。理不尽な仕打ちを受けることもしばしばありました。当時の芸能界は今ほどクリーンではなかったので、一般社会では到底許されないことも、〝ギョーカイ〟的にはまかり通ってしまっていたのです。
そうした数々の洗礼を受け、真面目で純朴(?)な染井青年は打ちひしがれ、次第に心を荒ませていきました。とはいえ、心震えるような素晴らしい瞬間、出来事、人との出会いもたくさんありました。でなければとっくに足を洗っていたことでしょう。それとおそらく、わたしの中にモノを作って人を楽しませたいという欲求があったのだと思います。
さて、前置きがずいぶんと長くなりましたが、本作はそうしたわたしの経験をもとに書きました。執筆中、当時を思い返して胸が苦しくなることがあり、なんだかんだつらい思い出ばかりなんだなあ、と再認識しました。当時に戻れるならまちがっても芸能界には近づかないでしょう。
ただ、この世界に入っていなかったら、わたしは今こうしてエッセイを書いていないと思います。
魑魅魍魎が跋扈する芸能界という場所が、わたしを物書きにさせたのです。
《小説宝石 2024年3月号 掲載》
『芸能界』あらすじ
長年在籍したプロダクションを退所する俳優。人気女優を10年かけて育て上げた辣腕マネージャー。インスタにハマったベテラン女優。若い男たちのミュージカルを仕切る女性プロデューサー。容姿を弄るネタで30年笑いをとってきた漫才コンビ。誹謗中傷に悩まされているアイドル俳優、震災の町からデビューした中学生女子の父親。きらびやかな世界の光と影を描く、七つの芸能界エンターテインメント!
著者プロフィール
榊林 銘 そめい・ためひと
1983年千葉県生まれ。2017年『悪い夏』にて横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞してデビュー。『正体』はドラマ化され話題に。映画化も決まっている。ほかに『正義の申し子』『震える天秤』『海神』『滅茶苦茶』『黒い糸』など。
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