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Scene 029 The Commander's Convergence with the Top Secret

「ブラックヴォルトとは、突撃機動軍に鹵獲されたルウム13バンチを軍事要塞に改装した物。そう言ったね、HOLO」  P004ファースト・オペレーションズ・オフィサー=カイン・イン中尉は、この時もいつもの様に冷静だった。相棒と互いを任じ合うアダムが、この時ばかりは激しく動揺したのとは対照的だ。 「イエス、カイン」  P004AI作戦参謀官HOLOが、明朗な返答を返した。  P004、Brief Chamber 1──  今ここではP004ファーストクルー15名による、サイ

    • scene 028 Free Fray in Brief Chamber One

       P004、Brief Chamber 1──  AI作戦参謀官と作戦詳細相互理解を行う為の空間だ。チャンバー1はファーストクルー以上のブリーフィングに使われるのが通例である。  室の上座のやや高台には、4列16席のブースシートの居並びを見下ろす事が出来る様に、斜め向きに据えられたキャプテン・ブースシートが設置されている。そこに座るP004司令官=ロイデ・アームオン大佐は、各個のブースシートで作戦詳細相互理解を進めている第一戦闘要員の、だんだん大きくなる話し声と、どんどんチャ

      • scene 027 小さな諜報戦 part 4

         カイルのモバイルに、次々と自己消滅したらしい機能停止ボットのレポートが届いていた。どうやら先程の大型艦外作業ロボットが、皮切りの様だ。 「……自己消去ボットの報告が連続しています。WW、SS、CC、QQ、MM、他にも出そうです。恐らくこの艦のABの1割弱に及ぶと思われます」  モバイルをポーズして、カイルはアームオンに視線を向けた。 「うん──さっきの大型艦外作業ロボットがスパイ中枢だったという事だろう」  アームオンはリストウォッチを見た。 「5時間23分。予定

        • scene 026 小さな諜報戦 part 3

          「機械! た、確かに──AI作戦参謀官が諜報活動を行うなら無敵だ! P004のナビゲーターなら全ての情報にアクセスできる! それに──盗み聞きでも、そもそも最強だ。Navigational Codexを破るなら、彼はクルーのOperational Voicesに限らず、プライベートでの会話や独り言まで、艦内で発される全ての発言を記録できる! ま、まさか──ホ、HOLOがスパイなのか!? それではもう、どうしようも──」 「カムジン、違う、そうじゃない、落ち着け」  カイル

        Scene 029 The Commander's Convergence with the Top Secret

          scene 025 小さな諜報戦 part 2

          「もし飛行機に乗らなかったら、後悔することになる。多分すぐにはない。でも、いずれ後悔する」  闇深い夜、遠くの滑走路の灯りがぼんやりと二人の男女を照らしていた。男は深刻な面持ちで女を諭していた。  女の目には涙が溢れている。しかし、彼女は彼の言葉の真実を受け入れる覚悟を決めていた。 「私たちはいつもパリを持っているわ。私たちにはそれがあるの。私たちが失ったものと引き換えに」  彼女は静かに、しかし確かな声で応えた。 「さようなら」  別れの刻が迫る中、女は最後の言葉

          scene 025 小さな諜報戦 part 2

          scene 024 小さな諜報戦 part 1

          「第四デッキ管制よりG4、 オートパイロットで着艦せよ」 『了解した。オートで着艦する』 「G4、目視確認、問題なし、機体外部に異常は確認できない」  管制タワーと外宇宙を隔てるクリアービューポートに投影されるG4を見つめる管制官が報告した。 「……G4、アプローチ、問題なし。フォローを継続する」  タワーのベクターディスプレイに表示される線画のG4の数学的軌道パスをチェックしながら、もう一人の管制官も報告をした。 「了解。でも、今回は本気でヤバかったね。まだ、結

          scene 024 小さな諜報戦 part 1

          scene 023 出撃!64-TET DOM

          『ファルコンネスト、ウォッチママよりアップル1、聴こえますか?  ミッションを進行させてください』  パイロットシートで、まだベルトを掛けようとしているアインに、フレイアからの通信が入った。ベルトフックがしっかりと刺さっていることを感触で確認して、バックルをプレスする。滑らかな衣擦れ音と共にベルトに圧迫されるのを感じながら、アインは小さく、やれやれのジェスチャーをして見せた。 「なんだか張り切ってるね。いい事あったのかな? フレイア」  隣のガンナーシートで、巻き毛の収

          scene 023 出撃!64-TET DOM

          scene 022 EVFFFの十傑

           ────サイド5暗礁宙域。  一年戦争初期に行われた、ルウム戦役によって生まれた暗礁宙域だ。最大の戦いと云われるルウム戦役の戦闘規模に比例して、このルウム暗礁宙域もまた最大の広大さと深さを有している。その暗い海の底に、静寂に包まれた黒い影が潜んでいた。  ────Codename Black Vault  その姿を一見すれば、まず最初に開放型のスペースコロニーだと思う。  しかし次に、全体が異常に暗いことに違和感を覚える。その手の技術に明るい者ならば、それが光を吸収す

          scene 022 EVFFFの十傑

          scene 021 OPERATION SILENT MAPPER

          『第四デッキ管制よりG4、 オートパイロットで着艦せよ』 「了解した。オートで着艦する」  クラウザーは自動操縦にバトンを渡した。そのまま、コンソールに流れる文字列が全てグリーンである事を確認している。未だ母艦はミノフスキー粒子の戦闘濃度散布を続けているからだ。着艦操作をしているローカライザーに通信障害が発生したら、マニュアルに戻さなければならない。  P004の左舷端、第四デッキの先端、発艦口の下部に吊り下がる様に、アレスティングネットが迫り降りているのが見える。デッキ

          scene 021 OPERATION SILENT MAPPER

          scene 020 仕舞い

           ヴィーー!! ヴィーー!!  本能的に危機を直感させる様に造られたデンジャーベルが、けたたましく鳴り響いた。  同時に、造られた訳でなくとも生存本能を刺激する破壊の振動が、船体を伝わってくる。 「対ショック防御解除! 損害を報告しろ!!」  追撃艦隊2番艦。艦長にして現艦隊指揮官=オルドー・ゼスト大尉の命令が飛んだ。 「核融合炉動力伝達主経路損傷! 直ちに誘爆回避されたし──」  バァン!! オルドーの烈しい掌打が響く。 「メインエンジン停止! MCバイパス接続

          scene 020 仕舞い

          scene 019 魔女の胎動

           G4のスナイパー・スコープ・ウィンドウに、ムサイ級2番の後姿が映っていた。  G4は敵艦隊の展開するエリアを駆け抜けて、その先で180度旋回をした。後進姿勢でスナイパーポジションを取り、非常に大きな相対速度でどんどん敵艦隊との距離を開きながら狙撃に入ろうとしている。全て、シュアルの指令書の通りだ。  クラウザーは、G4が潜航突入で交戦エリアをすり抜けた後に起動するのは、当然、敵艦隊の眼前だと思った。それが最短最速で攻撃を仕掛けられるからだ。  しかし、そうすれば集中迎撃を

          scene 019 魔女の胎動

          scene 018 プレイメイカー ウィズ ゲームメイカー

          「メインエンジン停止。セーフティロック。予備電源、フリーゲージOK。400分以上のステルス行動が可能。ミッションに入る──」 『G4シフト。ミッションチャンネル交信を流動へ。パーソナルコード通信を固定せよ。P004コマンダー、シュアル・オファー中尉です』  潜航突入の準備を整えているクラウザーに、シュアルが申告した。 「──G4ラジャー。この回線をメインに固定。クラウザー・ラウザー中尉だ。ザンジバル級をロックオン。……ああ、ザンジバル級だったな、すまない。スラスター加速

          scene 018 プレイメイカー ウィズ ゲームメイカー

          scene 017 光芒一閃 そして、追憶へ

           ────追撃艦隊2番艦のブリッジ。  突破戦闘の艦隊指揮を預かる艦長=オルドー・ゼスト大尉は、静かに掌打を構えた。ブリッジ上方スクリーンには、今まさに3番艦を盾にした静止狙撃戦型が整おうとしている映像が見える。2番艦は敵の砲撃に揺らされない、静止狙撃ポジションを得るのだ。全ての指示は完了している。主砲は敵機G型への狙撃を開始するオルドーの合図を待つばかりだ。しかし、これも、最早ダメ押しと言っても良い。  艦隊指令=ギュオス・メイ少佐の戦術は見事に完了しようとしている。ゲル

          scene 017 光芒一閃 そして、追憶へ

          scene 016 暁の闇

           G1の突き出したビームライフルが、ビグロを睨み返していた。  ジェットは、ゲルググを切断する間もビグロだけをエイムしていた。ロックオンは完了している。撃たなかったのは、これでは当たらないと確信しているからだ。  戦闘再開の口火を切ったのはジェットだ。指先を射撃の動作に踊らせて、ビームライフルのパワーを解放する。  ヌルリとビームを外して見せたビグロが、フレキシブルアームを撓ませた。 『G1! 行けぇ!! 追え!  リーダーより! G型全機! 母艦に迫るゲルググを追え! 

          scene 016 暁の闇

          scene 015 MIGHTY KNIGHT

          「──読める」  メインフォーカスの敵機周辺に表示された種々の情報を一見で分析しながら、ジェットは呟いた。  黄褐色のビグロの回避運動は予測不能とは言えなかった。変速する三拍子だがリズムがある。そして、切返しは上跳ねに比重している。  そんな回避運動じゃあ、P004MS隊に来たら最下位の格付けだな……でも、だ──  ジェットはビグロのホップに狙いを置いた。行き交う互いのビームが、フラッシュ撮影のように激しくコックピットを照らす。ビグロの攻撃を、ジェットは避けていない。彼

          scene 015 MIGHTY KNIGHT

          scene 014 「30秒だ」

           操舵手を失った4番艦は、メインロケット噴射の軌跡を錐揉ませながら暴走していた。  スロットルはロックされているようだ。最大戦速のままだ。加速Gが緩まないどころか、螺旋蛇行しているおかげで更に強烈な負荷になっている。席を立つ事はおろか、横を向くことすら困難だった。  更に、敵艦からの砲撃も無くなってはいなかった。強かにチャンスを逃さず、撃沈を狙っているのだろう。  主砲手が無事だったのは、九死に一生だった。よくぞ、敵砲を受け流してくれている。だが……  血まみれの口にマ

          scene 014 「30秒だ」