scene 023 出撃!64-TET DOM

ファルコンネストApple1, do you copy?ウォッチママよりアッThis is Falcon Nest.プル1、聴こえますかWatch Mama is speaking.
 ミッションを進行させてくださいProceed with the mission.

 パイロットシートで、まだベルトを掛けようとしているアインに、フレイアからの通信が入った。ベルトフックがしっかりと刺さっていることを感触で確認して、バックルをプレスする。滑らかな衣擦れ音と共にベルトに圧迫されるのを感じながら、アインは小さく、やれやれのジェスチャーをして見せた。

「なんだか張り切ってるね。いい事あったのかな? フレイア」

 隣のガンナーシートで、巻き毛の収まりを直すために今一度ヘルメットを脱ぎながら、ナパーム・パーム中尉は笑った。とぼけてはいるが、先程の通路でのアインと、おそらくフレイアの囁き通話ウィスパーネットの所為だろうと分かっている。

アップル1より、全部隊、聴けAll Vines and Barks, Apple One, listen up.今回の敵はAssume this 我々の全てを enemy knows 知り尽くしている everything about us, と想定してかかれ down to the last detail.
 お前たちの装備、特性、戦闘能力、Think like they've got intel on everything from your 性癖からケツの穴まで personal quirks to the nitty-gritty. 知られていると思え Stay sharp out there.
 いいか? これはマジだThis is reality, 煽ってるんじゃないnot an exaggeration.もう一度言うI'll say it again:
 敵は我々について、it's highly likely 考えられる限り最大に詳細な情報まで the enemy has access to our 入手している可能性が極めて高い most detailed information.
 そうだな?Right,  ウォッチママWatch Mama?

そうよAbsolutely, アインdarl……… いつも通りの的確な指揮ですSpot on as usual.
 あなたってYou really決め手となる急所を射抜くのがhave a knack for this,本当に得意なのよねdon't you?……』

 幾重もの口笛が小さく吹き鳴らされた。まだブラックヴォルト内部での通信だ。ミノフスキー粒子も戦闘濃度まで散布されていない。回線は最高にクリアーで、聴く全ての者は同時に発信もできる状態だ。
 隣でアインの肉声を聞く事ができるナパームにも交信は聴こえている。被りかけのヘルメットのお陰で拾われる事は無かったが、ナパームもまた、思わず口笛を吹いた一人だった。

 これは、ヘビーな話だな。敵を知って自分を知ってれば絶対に負けねーよって、偉い戦略家の、あったよな。一体どういう敵なんだ?

オーケー、着座した。行けるよStrapped in  and  ready to roll.

 ヘルメットを被り終え、納得のいく着座姿勢でベルト圧を掛けながら、ナパームがコールした。

コア・ロックCore Lock核融合エンジン始動Ignition

 アインが起動シークエンスを開始する。コックピット上方の天井面に折り畳まれるようにして半埋没していた三面連結のモニターシステムが、キャノピーが閉じるように展開してくる。前方に開けていた、座席への出入の空間が正面左右のモニターによって閉鎖されていく。
 ガンナーシートも同様だ。降りてくるモニターで隣のアインの姿が見えなくなる寸前に、ナパームは親指を立てサムズアップしてグッドラックをサインした。アインの返すサムズアップが、遮るモニターの向こうに消えた。

 ……それにしても、フレイアのあの言い方……僕が思うよりずっと大きな事があったんだなSeems like they've really hit a major stride.

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バナナリーダーより第二飛行中隊Banana Flights, Banana Leader,起動シークエンスに入れReport inコンディションを報告せよwhen you're hot and humming,オーヴァーover.

 コングは、交信チャンネルのセレクターを第二飛行中隊バナナフライトに切り替えてクエリーを発した。

バナナ2、ラジャーRoger. Banana Two.起動シークエンス開始Initiating launch sequence. システム、グリーンSystems ramping up.コンバットヴァイブも問題ないCombatVibe index checks out solid.

バナナ3、ラジャーRoger. Banana Three.規定の起動シークエンスを開始したCommenced standard launch sequence.コンバットヴァイブはCombatVibe is────』

 ……フレイアは、気高きAI作戦参謀官ワルキューレだ。

 次々に返って来るアンサーを聴きながら、コングは先のアインとフレイアのやり取りについて考察していた。

 決して、フレイアをその名で呼ばなかった隊長を、フレイアもまた中佐としか呼びはしなかった。今まではなUntil now.つまり、これはThis, then, signifies────

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チェリーリーダーより、第三飛行中隊All boys, Cherry Leader,シークエンスを開始しろkick off your sequences.ご機嫌If anyone’sイマイチな奴がいたらgot a sour CombatVibe or a glitch in the bird, 言ってこいgive me a holler.

 ……隊長はフレイアを認めたって事だ。

 自身でも起動シークエンスをこなしながら、ボーイもまた考えていた。

CombatVibeコンバットヴァイブ 8.78エイト ポイント セブン エイト

 マシンボイスが、ボーイのコンディションを告げてきた。十分にOKだ。

 ──隊長の能力評価ジャッジメントは厳格だからな。AI作戦参謀官フレイアを認めるなら、AIのスペックを超えたパフォーマンスが必要だろう。
 ……敵はこっちを知り尽くしてるってやつが、それだろう。フレイアが情報源ソースみたいだしな。だとすると、それはかなり、キナ臭いなSomething's brewing………なんだか悪い予感がするぜgot a bad hunch about this.

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デーツリーダーより、デーツ2Dates Two, Dates Leader,第四中隊のシークエンスを仕切れtake charge of the Dates Flight’s LaunchSeq for me.まぁいつも通りだJust the usual drill.

 ……アインとフレイアが仲睦なかむつまじくなるのは、EVFFF俺達にメリットしかない。歓迎だ。

たまにはお前がやってもいいんだぜYou sure about that,? ロメオRomeo?もうすっかり忘れちまってWouldn't want you to get rusty.出来なくなってたら困るだろNeed to stay sharp, right??』

 手抜きショートカットした指示をくれて、考え事をしようとしていたロメオに、デーツ2からの提案ウィッシュが返されてきた。

そしたら、If you don't step up,ずっとお前の仕事になるだけだ it might just become your permanent gig.無駄口叩かずにNo more chit-chat,さっさとやれlet's get moving.

 まぁ……バロの奴はちっと、面白くはないかもしれねぇがな。まぁ、そういうのはな。まぁ、仕方ねぇ事さ。バロは優秀な制空兵エアマンだ。そんな事で、万一にもミッションに影響するわけもない。

 デーツ2をあっさりとさばいて、ロメオは考え事を続けた。

わかったよCopy that,デーツ2、了解Dates Two. Understood.

 デーツ2が今しているだろう顔を思い浮かべて、ロメオは笑った。そして考え事に戻ると、彼の笑顔はすぐに消えた。

 気に入らねぇのは、敵が持っているっつうこっちの情報量だ。俺のプレイスタイルまで知られてるってのはな。どうにもなThis ain't gonna fly…いただけねぇ…… We're sitting ducks out here.

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「メインエンジン、安定稼働に入ったin SteadyRunいい音だSolid OneTune
 ナップ、続きを任せるHanding over the ensemble's helm.フライトシークエンスのリードも頼むTaking point on the Apple Flight's LaunchSeq too.

 アインは第一飛行中隊長アップルリーダーの仕事を相棒ナパームに投げた。彼は飛行打撃群EVFFFの指揮官であり、今の様な有事にあってはブラックヴォルト全体の戦闘を仕切る司令官でもあるからだ。

脚部ツインエンジン、起動に入るFiring up leg twin engines. Engage.

 ナパームは、返事の代わりに、続く起動のオペレーションチェックをレポートした。

アップル1より、EVFFF全機All Vines,  Apple One.蔓の釣り糸、了解しているなDeploy Vine Lure Formation. Clear?
 第一攻撃大隊Citrus Squadron,先駆けAlphaFront.第二防衛大隊Berry Brigade,加勢BetaBack.だ──」

 相棒ナパームの当を得た応答に悦入えついりながら、交信チャンネルのセレクターを『EVFFF』に変えると、アインは指揮を再開した。

アップルリーダーよりアップルメンAll Apple Men, Apple Leader,調子はどうかなhow's everyone holding up?? 君達の誰一人欠けてもRemember, Apple Flight can’t アップルフライトは成り立たない fly straight without each and every one of you. コンバット・ヴァイブがIf your CombatVibe 8ポイントを切るようなことを言われたら dips below eight,僕だけにこっそり言ってくれればいいよjust give me a heads-up, will ya?? 採点の厳しいLet's keep it on the down-low アイン教官には黙って from the hard-grading Captain Ein.がっつりハイになれるI've got some tricks up my sleeve to boost us up,秘密を教えてあげるからkeep us flying high―no need for him to know.

 聴こえてくるナパームのリードに、アインは笑った。いつもソートフルで、彼のリーダーシップは心地が良いと思う。

脚部ツインエンジン、安定したよLeg twin engines, in SteadyRunいい音だねHarmonious Ensemble

 起動オペレーションのチェックも自然に滑らかに伝えてくる。少なくとも中隊長にはナパームの方が向いている、と、アインは思う。

システム、オールグリーンSystems green across the board.セーフティ、解除するよSafety’s off,──』

 彼等の繰るMSは、その機体に3基もの核融合エンジンを搭載している。その全てが、エネルギーCAPに頼らずともメガ粒子砲を稼働できる、MAビグロやムサイ級戦闘艦に搭載されているフルスペックジェネレーターだ。

『──火器管制開始Weapons free.HMSオールレディHMS, we're good to go.

 このオーバーロードなMSを、ジオンは重モビルスーツHeavy Mobile Suitと区分した。

 ────HMSHeavy Mobile SuitドムDOM

 ゲルググをも大きく上回る巨躯と大出力を持つこのモビルスーツは、広域支配と一騎当千をその使命として誕生した。

"Predictive engagement patterns loaded.  予測遭遇パターンをロード Preparing for dynamic response… 動的対応の準備中… 

 メインモニター上部に文字列が並んだ。中央にブラックヴォルトを中心とした周辺宙域が立体投影され、フレイアによるシミュレーションが表示されている。無数の光点がモニター全域に浮かんでは消えていった。

 ────ブリティッシュ作戦=コロニー落としの失敗によって早期戦勝のプランを失い、地球降下作戦に踏み切らざるを得なかったジオンは、結果、急速に国力を失っていった。そのあおりを最も食らったのは宇宙攻撃軍だ。持てる生産能力を、底無しの消耗線に成り果てた地球戦線に奪われ続け、広大な宇宙空間での支配力をみるみる細らせていた。

"Enemy approach vector analyzed.  敵の接近ベクトルを分析 Adapting launch sequence… 発射順序を適応中... 

 光点が5つのトライアングルグループにまとめ上げられ、5本の矢印がブラックヴォルトに向けて複合的なS字を描いた。

 ────制宙はジオン生命線であると考える宇宙攻撃軍将ドズル・ザビは、少ない軍備で、今後も拡大せねばならない宇宙戦線を支えるための宇宙軍再編計画を練り上げた。その中核となるのが、HMSドムである。

"Adjusting grid alignment 最大防衛範囲の為の  for maximum coverage… グリッド配置を調整中... 

 モニター上のブラックヴォルトが拡大投影され、透視線画に変換された。ブラックヴォルト全体から8箇所のグリッドが選ばれて、アルファ~ヘクターにネームドされた。HMS格納庫から8つの飛行中隊がそれぞれのグリッドに搬送される様子がアニメーションを開始した。

 ────ドズルのプランは、MS自体に艦船級の広域展開能力を与え、更にそのMS同士の連携だけで、戦闘艦のフォローを必要としない火力を備え、勿論、MS同士の戦闘力においても十分な強さを発揮するスーパーモビルスーツにより、ソロモン要塞のみを発着ベースとした戦術展開を可能とする事を目的としていた。これは全宇宙戦線統合計画であり、個々に存在する宇宙各所の戦場を、統一した一局面として扱うという大戦略的発想だった。

"Calculating optimal launch vectors… 最適な発射ベクトルを計算中... 

 ……フレイアWatch Mamaの解は5部隊による侵攻か。……うち一つ、小さい奴が、例の二頭立てだな。…………当然だが、とても妥当だ。……そして、勿論、俺は彼女の解を100%信頼する! …………君は、本当に素晴らしい女性なんだよ、フレイア…………

 第五飛行中隊エルダーベリーフライトがエコーグリッドに搬送されるリアルな振動をコックピットで感じながら、バン・バロ少佐は考察していた。ふと、厳しい顔が一瞬崩れて溜息をした。

 ────MS運用母艦を排除して全ての生産をこのスーパーMSに集中することで、資源と生産コストの最少化を計り、画一化されたシームレスな命令系統と全域を対象とする機動的戦力運用で、戦果と戦線維持力の最大化をもたらす。

"Synchronizing flights for coordinated launch… 射出最適化の為の搬送同期中... 

 …………アイン…………お前は凄い奴だ。ずっと尊敬している。パイロットとして、指揮官として、そして友人として。
 …………だから、俺はずっとお前と闘ってきた。戦士として、そして……男として。
 アイン、今回は勝ちを譲ってもらうぞ! 俺の見切った敵の戦術と、俺が見込んだ女の解析が、ブラックヴォルト侵攻という、突撃機動軍最大級の脅威を排除する! SkyMarshal Echo Major Ban Baroスカイマーシャル エコー メジャー バンバロのプライドに賭けて、この栄光は、必ず勝ち取って見せる!!

 ────ソロモンから出撃して、果てのサイド7までも独力で飛んでいき、必要な作戦を終えて帰還する。補給線の確保も維持も必要としない。部隊の配備も駐屯もしなくて良い。実効出来れば、今後のジオン劣勢化の暗い見通しを覆すことも期待できる、まさに窮鼠が生んだ画期的なプランだった。

"All systems green.  全システムグリーン Awaiting発進指揮 final launch command...  フライトリーダーへ...  "

アップルリーダーより第一飛行中隊All Apple Jocks, Apple Leader,アルファグリッドに進入せよStride to Launch Grid Alpha,
 全機、カタパルトセットfor takeoff prep. Let’s lightさあ、行くよthe fires and kick the tires!

 ナパームはPOLPパイロットオーバーライドランチパッドをオンにした。ドムがオートで歩き出す。左肩にEVFFFのエンブレム、右肩にアップルフライト1番機を示すCallSign Crestコールサインクレストが見える。
 グリッドの1番カタパルトの右シャトルスターボード・シャトルに、微細な光粒子をまとっている脚部を乗せた。

 ────このスーパーMS最大の要諦である長距離航続能力を実現したのは、脚部に双配されたミノフスキー・ジェット・システムだ。これは、2基の核融合エンジンの形成する異なるiフィールド同士の斥力による反作用を推進力にする、事実上の無制限推進システムだ。

第一攻撃大隊Citrus Squadron,時計回りに索敵、掃討せよExecute a clockwise sweep, フォーメーションを意識しろwings tight andサプライズ、特段の警戒だeyes peeled.
 第二防衛大隊Berry Brigade,反時計回りに転回せよRoll counter,敵に抜かれるなよshadow tight? 影から追えon their six.──」

 アインも戦闘指令を続けている。ナパームの飛行中隊へのリードと乗機操作のレポートを聴きながら、全隊へ指示する内容とタイミングをコントロールしている。

 ────ミノフスキー・ジェット自体の加速度は低く、MSスケールで見た時の『泳ぐ位の速さ』だが、宇宙空間では減速ファクター無しに速度を累積していくことが出来る。長距離航行においては理想的な推進機構だ。

戦闘開始まではスラスターは使うなKeep your burners cool till we kick this off.今回、長期化はしないThis dance ain't going the distance, だろうがな but stay sharp.──」

 ────ミノフスキー・ジェット・システムは推進剤を必要としないが、ドムはその腰部に通常のスラスターシステムと推進剤も搭載している。戦闘時の高加速の為だ。

中隊は4分隊拡散だ、分かってるなAll flights, divide your units into four elements, right?? 接敵Flyon the razor's edge, ハルダウンjust shy ofでタンデムしろgoing full Hull-down.──」

 ────ずんぐりとしたボディの腹部に配されたメインエンジンは、機体の駆動とメガ粒子砲の稼働をまかなう。この主火器は当然、ビグロやムサイと同格の主砲級メガビーム砲だ。iフィールドで防御しても、対象を揺さぶる・・・・パワーを備えている。それ故に、ドムは戦闘艦の砲撃のフォローを必要とせずに対MS搭載艦隊戦闘を行うことが出来た。

アップル2よりアップルリーダーApple Leader, Apple2,左シャトル、セットPortside Shuttle is locked and loaded,オールクリアーskies are wide open.発進どうぞReady for the run, over.

 ────もし、通常のMSが戦闘艦の掩護なしに対艦隊戦闘を行うならば、戦闘開始の最初から敵艦のメインキャナーに完全静止狙撃を許してしまう。戦闘開始時点での相対距離は長大で、実体弾の兵装では届くまでに時間がかかり過ぎるために艦船といえども容易に回避されてしまう。弾着時間の無いビームライフルなら攻撃は可能だが、その出力ではiフィールド越しに敵艦を揺さぶる程のパワーはないからだ。

アルファタワーAlpha Tower,1番launch usテイクオフfrom Cat One.

 ナパームが射出を要請した。

 ────戦闘艦の主砲クラスのパワーを持つドムのメガ粒子砲ならば、iフィールドを展開する艦船を充分に揺さぶる事が出来る。それは敵の主砲手に狙撃の悪条件を強制できると言うことであり、回避運動を行うMSへの狙撃命中を殆ど不可能にする。つまり、砲撃戦によりMSを撃てないと言う通常の艦隊戦の状態をHMS1機で作り出せるのだ。

アルファタワー、了解Roger that, Alpha Tower.1番カタパルトCat One,3秒後に射出するlaunch in T-minus three.

 1番カタパルトの左右2つのシャトルに乗ったドムを打ち出すトラック先端のディスプレイに『03』のデジタルサインが点灯した。

 ────そしてさらに、フルスペックジェネレーターで稼働されるドムのメガ粒子砲は、やはりビグロ、ムサイと同じ様にiフィールドを展開することも可能だ。

行くよ、アインEin, drive check.

 02に変わるナンバーを見ながら、ナパームはパイロットをアインに返した。

 ────二機一組のタンデムチームを組む場合、前衛を務める一機がiフィールドを展開し、その陰にもう一機が配置するハルダウン戦型を執れば、敵のビーム攻撃に対して後衛はほぼ常に静止狙撃が可能になる。

ドライブDrive green, OKだMinovskyJet on mark.

 スティックがドライブポジションなのを確認して、アインは応答した。ディスプレイのサインが01になる。

 ────これは全力回避運動をしてくる敵MSをも撃墜できる程の狙撃アドバンテージがあるということだ。前衛が敵艦との砲撃戦を演じ、後衛が敵MSの狙撃を行う──たった二機のHMSで、MS搭載の戦闘艦部隊と対等以上の力を持つと言って良かった。

 続くカウントで数字がGOに変わった瞬間、カタパルトが高速で走り出した。強烈なGがアイン達をシートに埋め込んでいく。
 トラック先端で急停止するシャトルからリリースされ、2機のドムが綺麗な慣性飛行に入った。引きる様な顔の感覚が解放され、身体の自由が戻ってくる。
 スティックを操り、機体を左にやや引いてスライドさせると、アインの操縦に呼応するかのように、アップル2が前方突出しながら右スライドして前衛に位置した。

アップル1よりAll Vines and Barks, Apple One, ──
 アップルエレメント1は二頭立てと思われるApple Element One's takin' on that tiny tango 一番小さい奴に向かわせてもらう we believe's runnin' the double play.
 アップルエレメント2から4はElements Two to Four, エルダーベリーの指揮下に入れyou're under Elderberry's wing now.
 先駆け加勢のカップルはAlpha pairs for the big triangles:エルダーベリー、アップルElderberry and Apple on point,バナナ、フィグBanana and Fig,チェリー、グレープCherry and Grape,デーツ、ハニーデューDates and Honeydew backing 'em up.
 4つの大きな三角へ分配せよSpread out to cover all bases.オーヴァーOver.

 先導するアップル2のドムに半自動追尾航行をロック・オンして、アインは最終的な配置指示を下した。

 ────十分な練度をもつ兵士の駆るドム・タンデムは、1分隊=HMSドム2機のみで、同格の技量を持たせたサラミス級2隻とG型Gm型混成8機から成るユニットに、ノーカウントケースを含めた近似値を似て、無敗のシミュレーション結果を観測している。

アップル1よりアップル2Apple Two, Apple One,索敵フェーズのパイロットを頼むneed you on the stick for the recon phase.

 交信チャンネルのセレクターを分隊エレメントに切り替えて、アインは僚機にマンデートした。

 ────ブラックヴォルト防衛を務めるEVFFFは、HMSドム64機から成る飛行打撃群だ。この条件で計算される単純スケールでは、ブラックヴォルト攻略に投入されるべき戦力は『64隻のサラミス級と256機の混成連邦MSでは、基地の防衛力を加味しない敵防衛MS部隊にすら勝てない』と言う条件を最低値として構成されなければならない。そして、アイン率いるEVFFFは、その経験、技量ともに充分な、エリートパイロットAerion集団だった。

アップル2、了解Copy that, Apple Two.発見、奇襲、他Eyes peeled for bogeys,戦闘フェーズ移行時のready for any surprise tangoes.アドリブはAs for shifting into combat ops,いつもの通りでwe'll play it by ear as usual.こちらも了解Got it.

『この4人で飛ぶのが一番楽だね』

 僚機の具合を心得た返答に思わず口角の上がったアインに、同様の気持ちを抱いたらしいナパームの機内通信が聞こえてきた。

エルダー1よりアップル1Apple One, Elderberry One,、──気になるのか?』

 不意に、バンからの通信が入った。離陸したドム隊はこれからミノフスキー・ジェットによる長距離索敵航行に入る。ミノフスキー・ジェットはそれ自体が高濃度ミノフスキー粒子の展開でもある。つまり、ミノフスキー粒子の戦闘濃度散布状態になる為に、広域通信で各隊間の会話ができるのは今が最後だ。からだが、傍受の可能性を否定できない広域通信である以上、作戦がスタートされた後は、どうしても必要なものに限られるべきが通例だ。EVFFF副司令であり、誰もが一目置く作戦立案指揮者でもあるバンだからこそ赦される内容のやり取りだった。

「……真っ当にEVFFFを抜いてブラックヴォルトを陥落するとなれば、その艦隊規模は──どれ程いると思うよ?」

 アインは問いに問いで返した。

『ソロモン攻略級──とは言わないが、要塞への侵攻だからな』

「そうだ。俺なら、堂々と二方面同時要塞攻略を掲げ、全軍で作戦を共有する。その方が遥かに成功を見込めると考えるし……良い暁光を得られるものだ。……ソロモン攻略を陰にして動こうなどと言う作戦を考える奴を思うとな。……どうにもな……」

『……わかった。お前らしいな。好きにするさ。……だが、主攻を全部喰われて、何も出来なかったと愚痴るなよ? 今回は楽をさせてやるI'm giving you a breather this round.グッドラックWatch and learn, Ace.アインGood luck out there.

 バンの笑い声と共に通信が終了した。正確にタイミングを計測したかのように、ミノフスキー・ジェットによる通信障害が戦闘濃度に達したと告げるビープ音がした。

グッドラック……Good luck, but ease off the throttle…バンAce.

 アインは小さく、呟いた。

scene 023 出撃!64-TET DOM

Fin

and... to be continued


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