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窓際のアイスキャンデー

 購買にはソーダのアイスキャンデーが売ってる。味が薄く水っぽくてあまり人気はないのだけど、みんな時々うっかりして買ってしまう。でも、それは夏の制服にはなんていうか、ぴったりだった。うっかり買われながらも、屋上で、西階段で、中庭で、どこで食べてもきらきらした、うすいブルーだから。

 ヨシノ君は陸上部の期待の星で、大会に向けて猛練習していたけど、右足を痛めて足首に包帯を巻いてる。
 この前の金曜日、ヨシノ君がアイスキャンデーを食べてるのを初めて見た。窓際の自席で「みんなおいしくないって言うけど、ほんとにおいしくない」と、ヨシノ君はクラスメイトに言ってた。笑いながら、言っていた。そしてグラウンドをちらっと見て、がぶがぶと食べきった後の木の棒を、しばらく噛みしめていた。
 痛々しい包帯、そのようすに、あたしの胸はきしんだけど、同時にほんのちょっぴり、甘ずっぱいきもちだった。風を切ってグラウンドを駆けていた頃の彼は、おいしくないアイスキャンデーなんかに見向きもしなかったから。ヨシノ君もうっかりしてしまうんだねって、思ったから。

 夏休み直前の放課後、教室に誰もいなかったから、ヨシノ君の前の席に座ってアイスキャンデーを食べた。
 彼の机には、トトロの落書きがあった。隣に小さく、ドングリも描いてある。なんだか、訳もなく、泣けてしまった。
 うすいブルーがみるみる溶けてくから慌てて食べる。頬が熱くて、おいしくなくって、彼のいないグラウンドでは、ひっきりなしに笛の音が鳴っていた。


今日から3日間、毎日ちいさなお話を投稿します。3年前の夏の終わり。3編のお話を書いたお葉書をランダムに、ご希望の方にお届けするということをしていました。
それらをnoteにて公開することにしました。今日は、ソーダ味のアイスキャンデーのお話です。暑さ厳しい三連休の予感ですので、どうぞひんやりしていってください。


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