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エッセイ

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どうでもいいような、だけどあるとちょっとウレシい毎日のことです。
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2023年2月の記事一覧

待合室にひとり

待合室にひとり

雪のちらつく夜、町の診療所へ向かった。院長先生の見立てがよいと評判で、その夜も待合室は混んでいた。「四、五十分くらいいかかりそうです」と受付の女性が言い、わたしは「大丈夫です、待ちます」と答え、マフラーも取らずに椅子に身を沈める。外はとても寒かった。

待合室には十名ほどの患者さんがいたけれど、みな黙っている。テレビは音が消されていて、NHKの地域ニュースが流れていた。音といえば、天井のスピーカー

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「ミスドスーパーラブ」に寄せて

「ミスドスーパーラブ」に寄せて

よく訪れるミスタードーナツの店舗は、大型のショッピングモールの中に最近できたところで、きれいなソファ席が並んでいます。ホットコーヒーを頼んで席に着くと、店員さんが時々「おかわりいかがですか」とやってきてくれます。ポットと、シュガーとミルクの入った小さなカゴを持ち、ていねいにそう聞いて下さるので、「天使みたいだあ」と思う。だから、図々しくも何杯もおかわりを注いで貰うわけです。

出版レーベル『トーキ

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本のある島

本のある島

冬の日、休日に出掛けた夕刻、チラチラと雪が降り始めた。辺りは暗くなりかけているしもう帰ろうかと迷いながらも、地下鉄の出入り口を通り過ぎ、そのまま近くの蔦屋書店に向かった。暗がりの中に、ぼおっと店内のオレンジのあかりが発光している。わたしは、本のある場所に行きたかった。

本屋さんをうろつくことを、「本屋パトロール」と呼んでいる。これは特に、大型の書店を見回りするときに使う表現。決して、むつかしい顔

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