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摩擦がアイデアを抹殺する

先延ばしは時間の泥棒である - エドワード・ヤング

(原文:https://guillaumehansali.medium.com/the-benefits-of-frictionless-note-taking-featuring-roam-research-837be95abf2d

僕は好奇心旺盛で楽観的な人だ。 
なかなか治らない僕の先延ばし癖が魔法のように解決してくれる、そんな新しいツールがきっと見つかると信じている。

数ヶ月前のある日、Youtubeのアルゴリズムに推奨される動画を見ていたら (クリエティブな人は皆そうしていると思い込んでいる)、Ali AbdaalさんというYoutuberの「『Roam』でどのように私の人生を整理しているか」という動画に出会った。Aliさんのチャンネルは生産性についての動画が多く、今回の動画もその一つで、Roamは優れたメモ書きアプリとのことだ。
動画の内容はここでまとめ切れないので、見ることを強くお勧めするが、僕は、人生のあらゆる要素を一つのツールで記録するという思想と、ユーザーインターフェースのシンプルさに惹かれ、感激を受けた。

すぐにRoamの1ヶ月間のトライアルにサインアップし、使い始めてみた。それ以来、毎日使っている。
結論から言うと、先延ばし癖が治らなかったが(残念)、毎日Roamで考えやアイデアを記録することが自分の創造プロセスに大きな影響を与えてくれた。この記事はRoamのレビューではなく(世の中にはたくさんある)、また、あなたにRoamを使うように説得しようとするものでもない。なぜRoamが僕にこれほど大きな影響を与えたのかについて共有したい。

免責事項: 僕は、この今話しているテーマについての専門知識を持ち合わせていないため、あくまで一個人の非専門的な意見としてお読みください。

メモを取ることの利点

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Roamの素晴らしさやなぜ自分にそこまで影響を与えてくれたかを語る前に、そもそもメモを取ることのメリットについて少し考えてみたい。
学校の授業や退屈な定例ミーティングの時に眠気から守ってくれる以外にも、アナログでもデジタルでも、以下のようなメリットがあると思われる。

思考やアイデアを視覚化する:アイデアを書き留めることで、頭の中では曖昧で、時には支離滅裂な概念を、言葉や形で視覚化するのに役立つ。

思考プロセスを高める:人間の脳は複雑なアイデアを概念化することがあまり得意ではない。考えを書き留めておくことで、頭の中で一度に複数の概念をジャグリングすることなく、脳に一番得意な処理をやらせてあげられる。すなわち、書き留めた言葉の間のパターンや関連性を見つけることだ。

暗記する:紙の上では特に、メモを取ることは暗記に役立つ。試験の前日に頭に入るまで紙の上に同じ文章を何度も何度も書いた結果、手首を傷めた甘酸っぱい思い出は皆さんもお持ちでしょう(それか記憶できないまま痛みに屈ったか。)

感情を言語化する:脳は信じられないほど効率的であると同時に、とんでもない欠陥を持ってる。どういうわけか、僕たちの感情をコントロールする脳の一部である大脳辺縁系には、言語能力が備わっていない。普段の生活の中では、感情が僕たちの決断や行動の大半を決めているのに、その感情を言葉で説明するのは極めて困難(今度、なぜもっと自分の気持ちを伝えてくれないのかとパートナーに責められた時に、この言い訳を使うといい)。文字に起こす作業はまさに、自分の感情を言葉で表現し、気持ちの整理をする方法の一つ。

脳の負荷を軽減する:僕の個人的なお気に入りのメリット。僕たちは、多くの情報や決定事項について常に考えなければならない。これは脳にとって忙しい生活を強いることになる。この絶え間ない活動は、脳に大きな負荷をかけており、不安やストレスを感じるのはその結果。アイデア、思考、忘れたくないこと、心配ごとなどを書き留めておくことで、可哀想な脳を少し楽にさせられる。それによって、集中力を促進し、不安を軽減し、最終的にはストレスの解消になもつながる。

賢くなる:定期的にメモを見返していると仮定するが、コツコツと自分の知識の蓄積ができて、より多くの情報に基づいた意思決定を行うのに役立つ(はず)。

本当は、メモを取る技術について議論したいところだが、この記事の範囲外だと思うので、いつかの記事のトピックとしてとっておこう。

なぜメモを取らないで終わるのか?僕たちが悪い訳ではない

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前文のようなメリットがあるのに、メモを取らない、あるいは散発的にしか取らない人が多いのはなぜだろうか?僕は主に2つの理由があると考えている。

効率的にメモを取る方法を学んでいない
学校でノートの取り方を習ったのを覚えているかい?僕は覚えているのは、先生が喋っていることからできるだけ多くの言葉をキャッチするために最速でノートに書いていたことぐらい。

また、会議中にメモを取る方法を職場で習ったことがあった?念のためメモが取れるように会議にメモ帳とペンを持って来なさいと上司に言われていた記憶があるが、どうメモを取れたらいいかは教わっていないね。

メモを取ることがいかに有益であるかを振り返ってみると、微分積分が義務教育(あれ、義務教育は何歳まで?)として教えられているのに、メモを取るテクニックを教わらないのは理解できない(あ、誤解しないでください。僕は数学は専攻で、微分積分が大好きだった)。

ノートを取る習慣を身に付けられていない
メモを取るメリットを理解しているのにも関わらず、なぜ習慣化できていないのか?
ジェームス・クリアは著書「アトミック・ハビッツ」では、どんな習慣も、良いものも悪いものも、4つの要素で構成されるフィードバック・ループであると説明している:きっかけ、欲求、反応、報酬。「きっかけ」は引き金、「欲求」はアピール、「反応」は欲求に応じて実行する実際の行動、「報酬」は反応することで得られるもので、習慣の最終目標。言い換えると、習慣とは、単に僕たちの脳に登録されているパターンで、きっかけを認識し、それを欲求と関連づけ、報酬を得るために反応を誘発させるものだ。例えば、
きっかけ:LINE通知に気づく
欲求:誰が連絡してくれたのか、何について連絡してくれたのかを知りたい
反応:アプリを開いてメッセージを読む
報酬:好奇心が満たされ、人とのつながりを感じる(ドーパミンとオキシトシンの両方をゲット)
「LINE通知 」を 「気分がいい 」と紐つけることになる。このパターンが繰り返し認識されると、強力な習慣が生まれる(不本意ながらも)。

上記の例みたいに、メモを取る習慣は次のように考えられる
きっかけ:何かを思いついた
欲求:将来的に役立つかもしれないので、忘れないように書き留めたい。不安要素も軽減される
反応:書き留める
報酬:気持ちが楽になった。その思いの重荷から解放され、自分の将来に投資したことが嬉しいと感じる

僕たちが実際にその習慣を作りたいと思ったとしたらどうだろう?クリア氏は「行動変容の4つの法則」というフレームワークを提案している。
1. きっかけを明白にする
2. 欲求を魅力的にする
3. 応答は簡単に出来るようにする
4. 報酬は満足出来るものにする

LINE通知の例がどのように当てはまるか。
・通知は可能な限り気付きやすいように設計されている。
・好奇心が満たされ、つながりを感じることはとても魅力的。
・アプリを開いてメッセージを読むほど簡単なことはない。
・報酬は前述で話たように、大変満足をさせてくれる。

これだけ行動変容の4つの法則がバッチリ揃っていれば、僕たちがSNSにハマってしまうのも不思議ではない。

逆に言えば、これらの法則のうち1つ以上が欠けていると、たとえそれを強く望んでいたとしても、論理的には新しい習慣を形成することが難しくなる。
この論理をメモを取る習慣の例に当てはめてみよ。きっかけは比較的明白であり、渇望の強さは報酬がどれだけ魅力的であるかによって決まるので、肝心なところは反応と報酬になる。そして案の定、その肝心なところが不足していると考えられる。

先に、報酬を見よ。僕は報酬は2種類があると考えている。思考を書き留めること得られる解放感という短期的報酬と、書き留めてあったアイデア(投資)による配当という長期的報酬。
短期的報酬は、常に期待出来るが、長期的報酬は、当たり前だけど、得られるのに時間がかかるためすぐ実感できない。その結果、しばらくの間、大きな報酬が期待できず、その分強烈な欲求も生まれない。弱い欲求では、行動に移さない。「応答」のスイッチを押す力が弱い。

僕の見解では、そこは最も重要な課題となる。応答を「簡単にできるようにする」とクリア氏は言っている。ここでは、行動のしやすさ、つまり「摩擦」の少なさとも言い換えられる。摩擦が大きすぎると、そもそも強くない欲求という勢いを打ち消してしまう。報酬も得られず、フィードバックループを強化出来ず、習慣化に失敗しているのではないか、と僕は考えている。

摩擦を減らすことが、僕たちを救う鍵なのだ。

摩擦はアイデアを抹殺してしまう

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どこの国の人でも、老若男女、僕たちは共通していることがある。それは意思決定をすることを嫌うこと。意思決定は、認知的、感情的な活動を伴う、割と疲れるプロセスだ。多くの場合、不快な状況でも、何かを決めなきゃいけないのなら、状況を変えるよりも我慢することを選んでしまう。僕の勝手なイメージだが、毎日朝起きると、一日分の「決断力予算」を持っていて、決断するたびに予算が消費され、ゼロになるとそれ以上の「決断をする意力」を失ってしまう。

「Don't make me think」(僕を考えさせないで)というプロダクトデザインの有名な原則がある。これはユーザビリティの基本であり、製品は直感的であるべきで、その製品を使う前に「どうやって使うか」を考えなくてもいいようにデザインをしなさいというのだ。僕は個人的には「Don't make me decide」(僕に決めさせないで)とすべきだと思っている。

欲求に応えるとき、その行動が完了するまでに必要とされるすべての決断は、全てが摩擦となる。例えるなら、メモ帳が二階の机の上にあって、決断するごとに階段のステップの数が増えていくイメージ。

意思決定ってなんのこと?
例えば、アナログのノートの場合は、次のようなことが考えられる。
・どんなメモ帳を使うか?
・これは新しいページにするべきか?ページ名はどうする?
・数日前にも似たような内容について書いていた。今日の日付を入れて隣に置くべきかな?(前回書いたのどこだっけ?ページが見つからない・・・)
・今のアイデアは、そこまでして書き留める価値はあるかしら?

また、デジタルノートの場合は(僕はデジタル派)。
・ノートをどこに残すか?Google Docsで新しいドキュメントを作成するべきか?ファイル名は何にする?
・ファイルはどのフォルダーに入れる?フォルダー構成は整理しないと・・・
・ただのアイデアだから、Evernoteの方がいいかもしれない。ノートの名前はどうする?今後もこのノートを探すことはあるのだろうか?
・うーん、大したことないし、また思いついたら書けばいいから、書かなくてもいいじゃない?

そんな時はなかった?これらは、僕がメモを取りたいと思うたびに行っていた意思決定のプロセスのそのもの。これら摩擦の結果、多くのアイデアが残されずに消えていった。摩擦はアイデアを殺してしまう。

Roamの特徴は?

さて、Roamを使うことで何が変わるか?

まず、Roamを開いたら、すぐメモが取れる。毎日自動的にその日の日付がタイトルになっているページが作成されており、アプリを開くと今日のページで書ける状態になっている。もちろん、好きなだけページを作ることができるが、素早くメモとりたい時には非常に便利。

2つ目は、デメリットに聞こえるかもしれないが、Roamには編集機能が非常に少なく、その分摩擦も少ない。ページ全体がインデントに対応した箇条書きリストになっており、何かを書いて、タブキーでインデントをしたり、ブロックを見出しに設定したり、太字、斜体、アンダースコア、ハイライトを使うぐらいしか見た目的な編集が出来ない。

テキストを選択して、[[新しいアイデア]]のように2つの括弧で括るだけで、後からページを作成することができる。選択したテキストはハイパーリンクに変換され、そのリンクをクリックすると、新しく作成されたページが開く。

これはちょっとオタク的に聞こえるかもしれないが、Roamは双方向のリンクを提供している。前文で作成したリンクをクリックすると、開くページの一番下にそのリンクを作成した元の場所への引用が表示される。同じリンクを引用しているすべてのページをそこで追跡できる。タグについても同じように機能する。

箇条書きの項目はすべてユニークなブロックとみなされ、Roam内のどこからでも引用することができる。つまり、ブロックレベルでアイデアをつなげることができ、リンク引用を見るときには、ページだけでなく、どのブロックから引用されたかまで表示してくれる。

さてさて、アプリのレビューのようになってきたので、ここまでにしておく。

どのように僕を変えたのか?

まずは、摩擦をゼロに近づけたことで(僕に使っているデバイスの全てに常にRoamを開いている)、毎日のメモの数が10倍に増えた。残っている摩擦といえば、キーボードでアイデアを入力するのに必要な労力ぐらいだが、仕事柄抵抗がほとんどない。

最も影響力のあるアイデアが一番多く引用され、アイデアの自然選択が起きるので、自分の考えの「価値」や「質」を気にする必要がない。
自分のライフログを振り返ることができるようになり、自己反省などに非常に役立っている。また、自分にとって意味のあることを忘れてしまう不安も解消された。

そして最後になるが、「自分で思いつかなかったアイデア」の間に新しい関連性を発見している。より多くのコンテンツを追加することでそういったつながりを発見する可能性があるとわかっているので、書き留めることが楽しみになった。これこそが、僕にとっての長期的な報酬。

僕が学んだこと

・僕たちのアイデアは、生まれながらにして脆いもので、そして育て方を学んでいない。
・アイデアの育て方はスキルであり、練習をすれば上達できる。まず、書き留めること。
・僕たちがいる環境が生み出す摩擦に気づき、それを減らすための意識的な努力をすることで、メモを取る習慣を身につけられ、長い目で見ればきっと大いに報われるはず。

参考文献

・ロームリサーチ:https://roamresearch.com
・「Roamで人生を整理する方法」アリ・アブダー https://youtu.be/bpikCLhpIRY
・アトミック・ハビッツ、ジェームズ・クリア https://jamesclear.com/atomic-habits


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