1976年8月15日、夏の日の思い出(13)
僕は15分もかからず戻って来た。
戻って来たときには雪は自分の服に着替えていた。
「ただいま」と言って、そのまま奥の部屋行き、ローチェストからベージュの薄手のシェットランドセーターを取り出し「ちょっと肌寒いと思うから、これを着て」と言って渡した。
それから洋服タンスからマックレガーのベージュのドリズラーも取って「風が吹いていたらセーターだけだと風を通して寒いからこれも」と言ってそれも手渡した。
雪はすぐにセーターを着た。
身長はあまり変わらないけど、メンズのセーターなのでちょっと大きいようだ。
でも、雪の着ているものに合っていた。
僕もジャージを脱いで、椅子の上に置いていたリーバイスの501を履いて、チャンピオンのグレーのスエットパーカーを着た。
まだ、午後10時前だった。
僕の頭の中で雪と朝まで過ごすスケジュールが浮かんできた。
これから、ここを出て長節湖に着くのは、仮に午後11時半として、2時間いやそんなはいないと思うが長くみてもそのくらい。午前1時半に出て帯広に戻るのは午前3時には帰ることが出来るはずだ。
雪に車の中でも寝てもらい。
家に着いてすぐに寝てもらうと6時半まで寝たとして3時間半くらいは寝られるはず。
雪のお母さんは午前8時に駅の改札口前に来るとして、7時にハイヤーが来てもらうことにして駅まではどんなに途中渋滞があっても余裕で8時前には着くはずだ。
そんな感じで頭の中で時間の余裕持ったスケジュールを1つ1つ確認した。
とにかく明日の午前8時までに駅の改札口前まで雪を届けないといけない。
僕は、これなら無理のないスケジュールだと思った。
そうだあと何か少し食べるものを用意しようと思い、この時間なら店はもうどこも閉まっいるから、駅へ行こうと思った。
駅構内のキヨスクならまだ開いているかもしれないから、ガムや飲み物、何かサンドイッチとか食べるものを買うことが出来るかも知れない。
雪に「先に外に出てて、何本かカセットテープ持っていくから」と言って隣の部屋にあるカセットテープを入れているケースからカセットテープを3本取り出し、スエットパーカーのお腹のポケットに入れた。
それと今日履いていたスラックスの後ろポケットから財布を取り出し履いているジーンズの後ろポケットに入れた。
階段を降りて、居間に入り電話台に付いている引き出しから車のキーケースを取り出した。
そして、玄関に自宅から持って来たビーサンが入っている袋を手にして外に出て戸締まりをした。
車は、家の裏側に駐車している。
僕らは車のところに行き、車に乗り込んだ。雪が手にしていたドリズラーと僕が手にしていたビーサンの入っている袋を後部座席に置いた。
そしてスエットパーカーのポケットから3本のカセットテープを取り出し雪に手渡した。
『これとりあえず、ダッシュボードに入れておいて』と言った。
僕は車のエンジンをかけて、車を動かした。
「まずこれから駅に行く。駅のキヨスクでちょっと買い物してから長節湖へ向かう」と僕は言った。
車は、東の方へ少し走らせると西5条通りに差し掛かり、左折して北へ進む、地下道を出たところを右折するのだが交差点に差し掛かるとき信号機が右折のランプに切り替わり、スムーズにこの交差点を通過することが出来た。
朝の通勤時間や夕方の車の交通量増える時間帯は右折するのに2回くらい信号待ちをするよくあることだ。
次は、西2条通りに差し掛かかったら右折して南に向かうと帯広駅に着く。
赤信号で止まることもなく、駅前のロータリーに入ることが出来た。
僕は、車を停めて「ちょっと買って来る」と言って車から降りた。
そして、すぐに車に戻って来た。
「もう、閉まっていた。飲み物だけなら途中の自販機で買えるから」と言って車を動かした。
僕はすぐに駅前のロータリーから出て西2条通りを北に進んだ。
駅を出るとき、駅の時計は22:15だった。
車に乗ってから、雪は僕の言うことに「うん」と返事するくらいだったが駅から出てようやく話し出した「ケイ、運転上手。なんか乗ってすぐは運転が不安だったけど、家を出てから駅まで運転でこれなら大丈夫だと思った」と言った。
あとは国道38号に差し掛かったら右折して、そのまましばらくは道なりに東へ進むだけだ。
国道38号は、滝川市から釧路市至る国道。
浦幌町に入り、国道336号に合流したところを今度は国道336号を西に少し行ったところに長節湖がある。
国道336号は、浦河郡浦河町から十勝郡浦幌町を経て、釧路市に至る国道でこのまま進むと大樹町、広尾町につながる。
3日前に行ったし、ほぼ道なりに進むだけだから道に迷うことないし、ガソリンは満タンだしガス欠の心配もない。とにかく安全運転をして、交通事故に気をつけてれば問題ないだろうと思った。
午後10時を過ぎていたので、交通量は少なかった。
「ラジオを聴く?持ってきたカセットにする?」と僕が聞くと「カセットテープ」と雪が答えた。
雪は、やはり僕の運転は不安なのだろか、なんか緊張しているようにも見える。
「カセット出して」と僕が言うと雪がダッシュボードからカセットテープを取り出した。
「適当に持ってきたけど、何がある?」と聞くと、雪はカセットに僕が書いた手書きのタイトルを読み出した「“ホワッツ・ゴーイン・オン”と“トゥールーズ・ストリート”と“レイト・フォー・ザ・スカイ”」と言った。
「“レイト・フォー・ザ・スカイ”と書いてあるカセット、デッキに入れて」と僕が言った。
ジャクソン・ブラウンの“レイト・フォー・ザ・スカイ”でいいかと思ったのは、マーヴィン・ゲイの“ホワッツ・ゴーイン・オン”は、都会的な感じで郊外を走らせてる今の状況と違う感じだし、ドゥービー・ブラザーズの“トゥールーズ・ストリート”は、ドライブにあっていると思うけど昼間の感じ。それでジャクソン・ブラウンの“レイト・フォー・ザ・スカイ”にしたのだ。
しばらくの間、ほとんど会話のないまま、スピーカーから流れる音楽を聴いていた。
札内川を渡りるとさらに交通量が減り、対向車も時折ある程度でバックミラーに映る後続車もない。
お盆のせいかいつもの夜と比べて国道に出ると乗用車よりもトラックの方が多いのだが、国道38線を走行し始めてから、トラックとすれ違ったのは2回だけだった。
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